「生きづらさ」をかかえる人の多くは、学校的価値観にとらわれている

「今の会社、向いてないような気がするんですけど、私はどうしたらいいと思いますか?」人生の重要な決断を自分で下すことができず、他人の意見を聞いてばかりいる人がいる。そう語るのは、人気社会派ブロガー・ちきりん氏だ。今回は、「現代を生きぬくための根幹の能力」を解説するベストセラーシリーズの最新作『自分の意見で生きていこう―― 「正解のない問題」に答えを出せる4つのステップ』の発売を記念し、特別インタビューを実施。他人に振り回されてばかりの人生に終止符を打ち、「オリジナルの人生」を生きるためには、どんな思考法を取り入れればいいのだろうか。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

「インフルエンサーに人生相談」がやめられない人たち

──今回のちきりんさんの本の中には、「生きづらさから脱却しよう」というテーマがありました。そもそも、私たちの抱えている「生きづらさ」の正体は何だと思いますか。

ちきりん:ここ10年くらい、「生きづらい」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。言葉にできない、誰にもわかってもらえない、そんな漠然とした不安を抱えている人が多いんだと思います。なかには、子どもの頃からずっと生きづらさを抱えて生きてきたと告白するような人もいます。

 しかも、経済的に困窮しているとか、病気や障害があるといった具体的な問題は特にない、という人も少なくありません。だとすれば、なにがそんなに生きづらいのでしょう?

 文筆活動をはじめて以来、ツイッターのフォロワーも35万人を超え、最近は会ったこともない方から人生相談的な質問を受けることも増えています。そうした経験を通して感じるのが、自分の人生なのに自分で決断できず、他人に答えを求めてしまう人があまりに多い、ということです。

 仕事や人生に行き詰まった人が占いに依存してしまう、といった例と同様、インフルエンサーに人生相談してばかり、みたいな人が増えているんじゃないかと感じます。

生きづらさを抱える人に共通する「答え合わせ思考」

──たしかに。自分の意見に自信が持てず、他人に答えを求めてしまう人は多いですね。

ちきりん:「生きづらさ」を抱えている人に共通する特徴が、「答え合わせ思考」です。仕事選びにせよ生き方にせよ、常に「自分の選んだ道は正しいかな? 間違っていないかな?」と不安で、誰かに正解を教えてもらおうとしてしまう。算数の答を解いたあと、「これで合っていますか?」と先生に聞くような形で。でも人生の問いには正解なんてありません。だからそれでは、いつまでたっても自己肯定感がもてないんです。

「答え合わせ思考」で生きている人って、誰かに褒めてもらえないと安心できないんです。本当は誰からも褒められなくても、自分さえ楽しければそれでいいはずなのに、他人や社会が定めた「正解」=「正しい道」に自分が収まっているかどうかを常に気にしてしまう。

 なにかをやめるときも同じです。「間違った選択だった!」という自分の意見を明確にできる人は、さっさとそれを止め、次の道に進むことができる。決断が早く、自分に合わない道を選んでしまったとしても、すぐに軌道修正できます。

 ところが、「私は間違っていますよね?」「もうやめたほうがいいですよね?」と、他人に答え合わせを求め、「そのとおり! あなたは間違っています。そんな仕事はさっさとやめましょう!」と言ってもらえないかぎり、行動に移せない人もいます。そんなこと、他人に聞く必要もないことなのに。

──悩むたびにいろいろなインフルエンサーに人生相談して、でも納得いかず、また別の人に相談して……と繰り返して、結局何も決断できないまま時間だけが過ぎていく、というパターンも多そうですね。

ちきりん:そうですね。答え合わせ思考に陥ってしまうと、「強者」への依存リスクが高まります。「これが正解の生き方です!」と断言してくれる人に出会うと救われたような気持ちになるから、詐欺や宗教にもはまりやすい。でも、他人の提示する「正解」通りに生きたって、本当に自分が楽しいと思える人生を歩めるはずがない。

「生きづらさ」をかかえる人の多くは、学校的価値観にとらわれているちきりん
関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。シリーズ累計40万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』『自分の時間を取り戻そう』『自分の意見で生きていこう』のほか、『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』(以上、ダイヤモンド社)など著書多数。

「正解がある問題」と「正解がない問題」を見極めよう

──そういった生きづらさを抱え、つい他人の意見に振り回されてしまう……という人は、まずどんな考え方を取り入れるとよいでしょうか。

ちきりん:そもそも、問題には「正解のある問題」と「正解のない問題」がある、というシンプルな事実を理解することですね。世の中にはあらゆる問題がありますが、「どこでどんな仕事をするべきか」「病気になったとき、どんな治療法を選ぶべきか」など、「正解のない問題」がたくさんあります。2+2はいくつか、といった「正解のある問題」ばかりではありません。

──ちきりんさんが、問題には「正解のある問題」と「正解のない問題」の2つがある、と気がついたきっかけは何だったのでしょうか。

ちきりん:もともと社会問題について考えるのが好きで、そういった問題には答がないと気がついていました。年金制度ひとつとってみても、正しい解があるわけじゃない。

 あとは20代の終わり、外資系企業で働き始めたとき、やたらと「あなたの意見は?」と問われるようになったからかな。日本人コミュニティの中では比較的、自分の意見を言えているほうだと思っていたのに、会社に入って意見を問われるたび、つい「考える」のではなく正解を「調べよう」としてしまう自分に気がつきました。そのとき、「いくら調べても答えが見つからない問題もある。それはビジネスでも同じだ」と理解できました。

──言われてみれば、自分自身のことをふりかえってみると、正解のない問題にぶつかったときも、いろいろな意見を調べてしまうことが多い気がします。

ちきりん:まず重要なのは、「いま自分が悩んでいる問題・解きたいと考えている問題」が、「正解のある問題なのか、それとも正解のない問題なのか」を最初に見極めることです。「関ヶ原の戦いが誰と誰の戦いだったのか」「前回の選挙の投票率」「国連加盟国の数」といった、「正しい答え」が存在する問題ならば、調べればいい。

 けれど、「内定をもらっている2つの会社のうち、どちらに入社すべきか」「子どもにどんな教育を受けさせるべきか」といった「正解のない問題」については、いくら調べても「正しい答え」は出てきませんよね。こういった問題に対しては、いろんな意見があるだけです。

 正解のある問題とない問題を混同してしまうと、「正解のある問題について考え続け、いくら時間をかけても答えが出ない」、もしくは、「正解のない問題について調べ続け、いくら時間をかけても答えが見つからない」という落とし穴にはまってしまいます。それでは、いつまでたっても問題は解決できません。

 転職や起業について、「大成功しているあの人なら、正しい答えを知っているに違いない」と、成功者や著名人からアドバイスをもらおうとする人もいます。でも正解のない問題に関してそんなことをしても、問題は解けません。そういう人から聞けるのは「その人の意見」だけだからです。

「学校的価値観」の呪縛から逃れよう

──あらゆる問題に対して「正解」を求めてしまう風潮は、なぜ生まれたのでしょうか。

ちきりん:「学校的価値観」の影響が大きいのではないでしょうか。日本の学校では、「あらゆる問題に正解がある」といった誤った考えに染められてしまいます。

 頭が柔らかく感受性の豊かな子ども時代にこそ、自分で考え、いろんな意見に触れることが大切なのに、そのような環境で育つと、「まずは正しい答えを調べよう!」的な姿勢が染み付いてしまいます。それが過ぎると、生き方にも数学などと同じように、正解があると誤解したまま、大人になってしまう。

「生きづらさ」を感じる人の多くは、大人になってからも、こういった学校的価値観の呪縛から逃れられずにいるのではないでしょうか。「世の中で正解とされている人生を歩めない自分」を責めたり、絶望して他人と触れ合うのが怖くなったり……。

──生き方だけでなく、働き方にも大きな影響がありそうですね。

ちきりん:若い人から「やりたいことが見つからない」という悩みを聞くことも多いのですが、それもやりたいことがわからないんじゃなくて、やりたいことを封印しているだけなんじゃないか、と思うんです。

 やりたいことはあるけど、それが「正解とされている生き方」から外れているから、そんなこと望んじゃいけない、もしくは、どうせできるはずがないと、選択肢から外してしまう。そうではなく、誤魔化さずに自分の意見と向き合ってしっかり考えれば、「憧れの〇〇さんに会ってみたい」とか「海外で仕事してみたい」とか、反対に「できるだけ働きたくない」とか、いろいろ出てくるんじゃないかと思いますけど。

 本当は、失敗してもリカバリーの効く若いときほど、リスクをとっていろいろなことにチャレンジすべきなんです。40代、50代になってからでは、体力の問題もあるし、失敗してリカバリーするのに時間がかかりますからね。

 ところがみんな若いときほど「正解」を押しつけられる学校経験に近いので、「みんなと違う道」を選ぶ勇気が持てない。そして、歳を重ねてからハタと「もっと若い時に、やりたいことをやっておけばよかった」と気がついて後悔してしまう。

 だからもっと早くから「オリジナルの人生」を生きていいんだよと伝えたかった。正しいキャリア・正しい生き方があると思い込まずに、誰になんと言われようと、「これこそ自分の人生だ!」と胸を張って生きていける人がひとりでも増えたならいいなと、心から思います。

★連載第1回はこちら 日本人が知らない、リーダーシップと「自分の意見」の関係
★連載第2回はこちら 「賢く見せるのだけがうまい人」を見抜き、育てる方法

「生きづらさ」をかかえる人の多くは、学校的価値観にとらわれている