周囲からポジティブなパワーを引き出せる
さらにこの事例で興味深いのは、大曲さんの研究に対する周囲の反応が変化したということです。集まってくる情報の質が上がり、ポジティブな反応が増えたというのです。
「他の研究者から『こんな技術も使えるんじゃない?』『こんなコネクションがあるからつなぐよ!』みたいな感じの情報がどんどん集まるようになりました。今までどちらかというと苦言を頂くことが多かった方々からも、前向きな意見がもらえるようになって、びっくりしています」(大曲さん)
これは、『SF思考』出版時にはあまり意識していなかった効果なので、私も驚いたのですが、言われてみれば非常に納得感があります。かくいう私も、起業家から相談を受けることが少なくありません。もちろん「全力でサポートしよう!」という姿勢で話を聞くのですが、足元の技術やお金のことばかり説明されると、こちらも視野が狭くなり、言葉が厳しくなってしまうのです。「この計画、ここが甘いんじゃないですか」とか、つい詰めてしまったり……。一方、事業計画が少々甘くても、「こんな未来を実現したい!」というビジョンがストレートに伝わってくると、「この企業と組んでみたら?」「こんな情報ありますよ」「こんな人に相談したら?」という前向きなアドバイスが自然に出てきます。良いビジョンには、個人の中の多様性のうち、よりポジティブな面を引き出す力があるのですね。
これを敷衍すると、ビジョンが未来ストーリーとして分かりやすく語られ、それをメンバーが共有している組織ではイノベーションが起きやすいといえるのではないでしょうか。SF思考には、コミュニティにワクワクを伝播させ、組織風土そのものを変化させる「巻き込み力」があるのです。冒頭では日本企業の「あるある」をちょっと否定的に紹介しましたが、ひとたび方向性が決まれば、高い組織力で大きなパワーを発揮できるのもまた日本企業の「あるある」です。組織の潜在力を、ありたい未来の実現に真っすぐ生かすために――。マネジメントや組織風土変革の手段としても、SF思考をぜひ活用してほしいと願っています。