製品を形にした佐吉、
それを事業として成立させた喜一郎

トヨタ生産方式の根底に流れる、豊田佐吉と喜一郎の考えとは?稲田将人(いなだ・まさと)
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。神戸大学非常勤講師。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼー退職後は、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。2008年RE-Engineering Partners設立。著書に『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』『経営トップの仕事』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCA プロフェッショナル』(東洋経済新報社)、『PDCAマネジメント』(日経文庫)がある。

磯谷 どちらかというと佐吉さんは1人。取り巻きも、ものづくりが初めての人ばかりでは、言うとおりにやる人しかいなかった。だから、ある規模からは、様々な対応に大変だったと思う。結局、喜一郎さんが、組織作りを行い、今の豊田織機の礎をつくっていくことになった。

稲田 そこがお二人の、時をまたいだ分業が上手く機能した例ですね。

磯谷 喜一郎さんが、1200余台を使って自動織機の営業的な試験を行い、取り扱い法とか、異常対策書をつくって、この織機の事業を軌道に乗せた。だから喜一郎さんが、織機については自分が一番よくわかっていると言われたのはわかる。

稲田 製品を形にした佐吉さん。そして、それを事業として成立させた喜一郎さんとなるのですね。

磯谷 その通りで、喜一郎さんが「自分は織機の知識については世界一になったと思うが、すべて佐吉にもっていかれちゃうのは、意地がわく」と言われたと聞くが、その心は理解できるね。

稲田 創業者の後を継ぎ、事業を健全に組織で動く形にする方は皆、同じような想いを抱かれるようです。佐吉さんの、ご自身の描いた構想を、製品として形にした執念。喜一郎さんの、組織を機能させ、事業として成立させた執念。

 さらに喜一郎さんは、今のトヨタ自動車となる、まったくの新規事業である自動車に取り組むのですから、その情熱は凄まじいです。事業が発展する際の各ステージでの大きな課題を、お二人が上手くリレーさせることができた結果が、今のトヨタの姿になるのですね。