教育には、街を活性化させるパワーがある

衰退するエリアを活性化し、街の付加価値を上げる不動産戦略とは?木下斉(きのした・ひとし)
地域再生事業家
1982年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、修士(経営学)。国内外の事業による地域活性化を目指す企業・団体を束ねた一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、一般社団法人公民連携事業機構理事を務めるほか、各地で自身も出資、共同経営する熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、サッポロ・ピン・ポイント株式会社代表取締役、勝川エリア・アセット・マネジメント取締役なども務める。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画したのを発端に全国商店街共同出資会社・商店街ネットワーク取締役社長に就任。その後現在に至るまで事業開発だけでなく地方政策に関する提言も活発に続けている。主な著書に『地方創生大全』(東洋経済新報社)、『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』(ダイヤモンド社)、『街づくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか』(SB新書)などがある。

木下 彼女が最初にやったことは、商業地区の人たちから集まったお金を地元の学校の教育レベルの再生に投資したことです。それで、地元の公立学校のレベルがぐんぐん上がって、それからファミリー層にぜひ住みませんかって誘致して、移り住んでもらったのです。それで住む人が増えてきたので、今度は街の商業地区をファミリー層を対象にしたテナントリーシング(商業施設にテナントを誘致すること)に切り替えていくということをやって、見事一〇年ぐらいで街を大きく再生させたんですね。

上田 見事な手腕ですね。

木下 だから不動産というの、ただ土地を仕込んで上物を建てればいいみたいに思っている人が多いですけれど、それは違いますと。もっと社会全体のシステムというか、みんなが生活をする上で、いい教育を受けたいなとか、散歩をするキレイな公園があったらいいなとか、そういうものをどう実現していくかということを考えて実行することが、エリア全体の価値を上げることにつながるのです。そうしてエリア全体の価値が上がると、当然そこにある不動産の価値も上がっていくので、そうした機能の一つとして、教育というのはとても強い力を持っていると思います。

上田 まったくその通りですね。

木下 最近も、軽井沢とかでも風越学園という学校ができて、みんなが引っ越していくってなったら、もう住宅なんか全然足りなくなってくるわけです。しかも、みんなせっかく軽井沢に住むというので、家にこだわったりするから、地元の建設会社さんとかもすごい挑戦的なことを今やろうとしています。

上田 どんなことですか?

木下 資産価値が落ちないものをちゃんと作っていこうということですね。東京から来る人は、みんな時間に縛られずに自由に仕事ができるような世帯なんで、年収は高い人たちです。エリアで言えば軽井沢は高いけど、その周辺だったら都内と比較すれば土地は、まだ安いわけです。それで土地代が安い分を、今度は建物側に投資をして、次の一〇年後とかに引っ越しするときにも資産としてちゃんと売れる物件にしていこうと。そういうことを地元の建築会社や施工会社のみんなが話し合いながらやっています。

上田 素晴らしい取り組みですね。