人々の根源的な欲求や夢を実現する
「ドラえもんの四次元ポケット」

 メタバースは、世界の常識を根底から覆す。これまで私たちは、さまざまな媒体を通してデータや情報を入手した。それを分析することによって新しい発想が生み出され、より良い生き方が実現した。古くは伝書バトによる情報の伝達、新聞、ラジオやテレビ、パソコンやスマホを用いたネット検索という具合に、情報収集の効率性は高まった。

 ただ、いずれも、双方向のコミュニケーションではない。誰かが発信した情報を、別のところで受け取る。リアルタイムでその印象をフィードバックするのは難しい。コロナ禍を機に急速に普及したテレビ会議システムは、その隔たりを低下させたものの、いつでも、だれでも出入り自由な空間ではない。

 情報の発信と受信の隔たりがなくなり、新しい発想が生み出され、現実と異なる空間が拡張しうるという点で、メタバースは世界経済に「創造的破壊」をもたらすだろう。

 人工知能を用いて翻訳を行うことで言語の壁は低下し、これまで以上のスピードで情報検索や海外事業の運営が可能になる。

 突き詰めて言えば、「こんなことができたらいい」という人々の根源的な欲求や夢を実現することが、メタバースだ。メタバースは「ほんやくコンニャク」や「どこでもドア」などが飛び出す「ドラえもんの四次元ポケット」に例えることができる。

 メタバースがもたらす成長のチャンスは多い。それを手に入れるべく、各国でゲーム企業などの買収が増え、人材獲得競争も熾烈(しれつ)化するだろう。プログラミングや人工知能のディープラーニング、データサイエンス、アニメのクリエイター、さらにはより高性能な半導体やバッテリー、その実現を支える素材など、最先端分野ではすでに人材の争奪戦が起きている。

 わが国の企業は、激化するメタバース開発競争に迅速に対応しなければならない。中長期的に考えると、それができる企業とできない企業の差が、急速に拡大することだろう。