仕事や人間関係で悩むとき、「心の限界」サインをきちんとキャッチできているだろうか。限界を超えてがんばりすぎると、メンタルが壊れてしまうこともある。そう語るのは、『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』著者・わび氏だ。心を病まないための自衛術を学んでほしいと上梓した本書の発売を記念し、今回は、『生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』著者のバク@精神科医氏と特別対談を実施。仕事や人間関係で病まないコツを、徹底的に語り合ってもらった。(取材・構成/川代紗生)
「当たり前にできていたこと」ができなくなったら即病院へ
──今回は、「病まないコツ&逃げるべきサイン」についてお二人にお聞きしたいと思います。がむしゃらにがんばりすぎてしまうと、なかなか自分の心が限界であることに気がつけなかったりしますよね。お二人は、「心の限界」を見極めるための判断基準は、何か持っていますか。
わび:私は「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせるようになったら、それは休むべきサインだと思っています。大丈夫かどうかを確認するのは、少なからずダメージを負っているときです。
本当に大丈夫な人は、大丈夫かどうかなんて気にしません。
バク:そうですね。「まだ大丈夫」って今が辛いからこそ言い聞かせている言葉ですからね。めちゃくちゃ健康なときに「今、私、息してる」と思いながら呼吸しないじゃないですか。
「まだ息してる、大丈夫」とわざわざ心の中で言うのは、息苦しい中で無理して呼吸しているからですよね。
「まだ大丈夫」「まだいける」と思いながら作業しているとき、たとえば書類あと1枚書けば休める、とかなら最後までやり切ったらいいと思うんですけど、そうじゃないのなら、いったん休まないともたないですよね。
──しんどくなってしまっても、「自分の心が弱いだけなんじゃないか」と感じてしまい、「精神科に行って治療する」という選択肢が浮かばない人も多いと思います。「会社を休んで病院に行くべきかどうか」の判断は、どのようにすればいいのでしょう? たとえば、全然笑わなくなったとか、突然涙が出てくるとか?
バク:それはもう重症ですよ! すぐに病院に行ってください。
私ものべ2万人以上の患者さんを診てきましたが、その上で心から伝えたいのは、「ふだん何も考えずにできていたことができなくなったら、即病院」でOK、ということ。
たとえば会社に行くにしても、それまでパッと朝の支度をできていたはずが、「ああ、朝か、起きるのめんどくさいな」「朝ごはんどうしよう。抜くか……でも抜いたらまずいよなあ」とか、ゴチャゴチャ考え出すようになったら、かなりまいっている状態だと思いますよ。
わび:それ、なんとなくわかる気がします。
私が自衛隊にいたとき、大事な決断をする前に、いつも唐揚げを食べる先輩がいたんですよ。
理由を聞くと「好きなものがマジでうまいなら、判断力は正常だろ?」と言っていました。逆に、好きなものがおいしくないときは、心身が弱っていて、判断力が低下している証拠だそうです。これは割とわかりやすい目安ですよね。
バク:「おいしいものをちゃんとおいしいと思えるか」は、たしかにわかりやすいですね。
いずれにせよ、普通の病院に行くのと同じ感覚で診断を受けてほしいですね。
「精神科なんて行きづらい……」という人もいますし、事情があって精神科に行く勇気が出ないという方ももちろんいらっしゃると思いますが、症状によっては薬を飲んだり、カウンセリングしたりすることで改善される場合も多いので。
航空業界で働く危機管理屋
某国立大学卒業後、陸上自衛隊幹部候補生学校に入隊。高射特科大隊で小隊長になり、その後、師団司令部や方面総監部で勤務。入隊後10年間は順風満帆だったが、早朝から深夜までの激務と上司によるパワハラが重なり、メンタルダウン。第一線からの異動を経て、「出世ばかりが人生ではない」「人に認められるためではなく、もっと楽しく生きたい」と思い、市役所に転職。激務だった自衛隊時代に比べると天国のような場所だったが、自らの成長の機会を得るため、転職後1年半で航空業界にキャリアチェンジ。給料は市役所時代の倍に跳ね上がった。自衛隊などの社会人経験で身につけたメンタルコントロール術、仕事や人間関係に対する向き合い方などを中心にツイッターで発信を開始。普通の会社員にもかかわらず、開始して2年でフォロワー数が8万人を突破。ツイートはネットニュースなどにも取り上げられ、人気を博している。2022年2月現在、Twitterフォロワーは12万人。『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』が初の著書。Twitter(@Japanese_hare)
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー5万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。