『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「恋愛をマンガから学ぶ」が危うい本質的な理由Photo: Adobe Stock

[質問]
 今春から大学生の男です。少女マンガや青春映画のようなものから女性の気持ちを汲み取る機会を得たいのですがその点でおすすめの作品はありますか? 自分は男子校出身でかつ女性との関わりを持てるような場にも属しておらず、異性への理解があまりにも乏しいのではと感じております。まともな女性像も上手く描けません。

 なので恋愛面でも大学生活を充実できたらなぁという妄想が絵空事で終わらぬよう、マンガにも精通されている読書猿さんに少しお力を貸していただけたらうれしいです。

「女性像」「男性像」という考え方は実害のある妄想です

[読書猿の回答]
『アラサーちゃん』『ラブラブエイリアン』のどちらがよいかと思いましたが、そんなだまし討ちより、ご質問の前提を読み解く方がましか思いました。

1.まずフィクションから異性の心理や行動を学ぶことは、不可能とは言いませんが、かなりレベルが高い作業です。

 フィクションとして成立させるために導入された要素と、現実から取材された要素を寄り分け、フィクション化のために加えられた改変を元に戻すことができる程、経験・知識があるのであれば、そもそもフィクションを教材とする必要もありません。
(そこまでできたとしても、フィクションに登場するのは、その作品を成立させるために切り取られた、現実のごく一部分に過ぎません。)

2.「恋愛面でも大学生活を充実できたらなぁ」という以上に「(まともな)女性像」なるものは妄想です。

 それも単なる妄想でなく、他人が抱く「女性像」や「男性像」、「女性/男性は一般に◯◯のように考える(行動する)」という決めつけというか言いがかりによって、多くの人が縛られたり傷つけられてきた(いる)実害ある妄想です。

 そんなものを思い描いていると、最も軽微な場合でも、大変失礼な対応をしでかしてしまうか、相手を困らせてしまうので(しかも自分がひどいことをしている自覚がないまま繰り返すので)、あなたの目的にも反します。

3.人は基本的に他人のことが分からないし、まして会う前に理解することは不可能です。

 けれど分からないからといって、相手にどんな対応をしても良い訳ではない、ということならご存じのはずです。嘘をつかない、相手が嫌がることはしない、間違ったら謝る、自分の思い込みや価値観を押し付けない、相手の話に真面目に耳を傾ける、など、私達がはじめて会う相手にどんな対応をするか(またすべきか)のプロトコルは存在します。このプロトコルは、相手をかけがえのない存在として扱うところから生まれたものです。

 そして、そのコミュニケーションで良いかどうかは、頭の中に思い描いた「女性像」ではなく、目の前にいる人が(たとえ言葉を使わなくても)不断に教えてくれています。相手が異性である場合も、そうでない場合も。