緊迫するウクライナ情勢
西側諸国同士でも異なる“事情”
ウクライナ情勢が迷走、緊迫している。
ウクライナ東部、ロシアとの国境に近いドンバス地方では、政府軍と親ロシア派の間で銃声が飛び交っている。ベラルーシで2月10日から行われてきたロシア軍との合同軍事演習は20日で終了する予定だったが、ルカシェンコ同国大統領とプーチン大統領が延長する旨を決定した。
2月19日、G7外相がドイツのミュンヘンで会談を行い、外相声明で「ウクライナ周辺、違法に併合されたクリミア、およびベラルーシにおけるロシアの威嚇的な軍備増強について引き続き重大な懸念」を表明、「ロシアによる、挑発されたものではない不当な軍隊の結集は、欧州大陸における冷戦終結以来最大の配備であり、世界の安全保障および国際秩序への挑戦である」との認識で西側の結束を誇示した。
一方、「当事者」のウクライナだが、2月19日、ドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議にゼレンスキー大統領が出席し、従来通りロシアの軍事的脅威を強調したものの、欧米によるウクライナを守る決意も不明確だと批判。ウクライナの欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)加盟を認めるかの「回答」を求めている。また、「NATO加盟までには距離がある。それまでの間の安全の確約が欲しい」と各ステークホルダーに呼び掛けた。
ロシアの目標は明確である。NATOの東方拡大、そのためのウクライナのNATO加盟阻止だ。故に、仮にウクライナがNATOに加盟すれば、武力衝突は避けられないという立場を公に表明している。
中国を扱う本連載で「核心的利益」という概念を適宜扱ってきたが、これは「仮に他国・第三者によって脅かされた場合に武力行使をしてでも死守しなければならない利益」を指す。この意味で、ウクライナのNATO加盟阻止は、ロシアにとっての「核心的利益」だと解釈していいだろう。
一方で、ウクライナをNATOに加盟させ、同機構をロシアの国境付近まで拡張することを、G7を含めた西側諸国が「核心的利益」と捉えているだろうか。米国、欧州諸国、そして日本に、ウクライナのためにロシアと戦争をする決意と覚悟があるだろうか、利害や立場は一致しているだろうか、という意味である。不明瞭だと言わざるを得ない。
米国、フランス、ドイツ、日本など西側諸国の首脳がそれぞれプーチン大統領と会談をし、外交交渉による平和的解決を促してきた。一方で、これらの国家とロシアとの外交関係にはそれぞれの特徴と経緯が見いだせる。
冷戦期からライバル関係にあり、プーチン大統領のことを「殺し屋」とまで呼んだバイデン大統領率いる米国。天然ガスの3分の1をロシアからの輸入に依存し、地域の多くがロシアと国境を接するポストBrexit時代の欧州。未解決の北方領土問題を抱える日本――。
一枚岩になれるはずもない現状下で形成できる合意が、外交的解決へのコミット、ロシアの威嚇的な軍備増強への懸念といったあたりなのだろう。