バカは強い、バカは愛される、バカは楽しい、バカは得である――。国民的長寿お笑い番組の“黄色い人”として老若男女に大人気、バカの天才である林家木久扇師匠(84)が、バカの素晴らしさとバカの効能を伝える『バカのすすめ』を出版した。
世の中が息苦しさに覆われ、「生きづらさ」という言葉が広がる今こそ、木久扇師匠が波乱の体験や出会いから導き出した「バカの力」「バカになれる大切さ」は、ひときわ大きな意味を持つ。バカという武器に助けられた人生で起きた波乱の出来事や、「あの番組」の共演者&歴代司会者についての愛あふれる考察など、初めて明らかにする秘話もたっぷり。笑いながら読み進むうちに多くの学びがあり、気持ちがどんどん楽になって、人生観も見える景色も変わる一冊。この連載では本書から一部を抜粋し、再編集して特別に公開する。(構成 石原壮一郎)

【林家木久扇が分類】「人間の『業』を感じさせるバカ」写真/榊智朗

バカの天才が作った、日本初の「バカのカタログ」

「バカ」に関しては誰よりも真剣に考え続けてきました。

 今回出版した『バカのすすめ』では、世の中で見かけたり自分の中にいたりする「100のバカ」を探し出し、それを10種類+番外編に分類して10項目ずつご紹介しています。さらに、すべての「バカ」に、ひと言ずつ解説をつけました。

 いわばバカの天才が作った、日本初の「バカのカタログ」です。ほとんどは「真似してはいけないバカ」ですが、中には学びたい要素が含まれたバカもあります。ここでは「100のバカ」から、ちょっとかわいらしさもあったりする、「人間の『業』を感じさせるバカ」をご紹介しましょう。

 あなたは、思い当たる節はありませんか? ぼくはいっぱいあります。

分類「人間の『業』を感じさせるバカ」

●たまにモテるとすぐ人にふれ回るバカ

 言いたい気持ちはよくわかりますが、本当にモテる人はけっしてやりません。

「このあいだ駅前を歩いていたら、若い女の子に道を聞かれちゃってさ」
「俺がその話を聞くの5回目だぞ」

●人が成功すると何とかケチをつけようとするバカ

 心から祝福するのは無理でも、せめて“フリ”ぐらいはしたいものです。

「売れたからって調子に乗るんじゃないぞ。お前なんて、オレよりちょっとだけセンスがあって、ちょっとだけ顔がよくて、ちょっとだけ努力家ってだけだからな」

●うまく言っている人の失敗を願ってしまうバカ

 自分が苦しい状況にあったり疲れていたりすると、そう思ってしまいがちですね。

「お前なんか、芸能界でスキャンダルをでっち上げられて、人気がなくなっていなくなればいいのに」
「先輩、心の声がダダ洩れになってます」

●美男美女が結婚すると「絶対に離婚する」と言うバカ

 自分には関係ないのにそう言いたくなるのは、どうしてなんでしょう。おかげさまでウチは、今年で結婚して55年。あれ? 結婚したときに、誰も「あいつらは絶対に離婚する」って言わなかったなあ。

●言うことは立派でも行動が伴っていないバカ

 落語家は言葉が商売道具ですけど、それでも口ばっかりでは信用されません。言うはやすし、ってヤツですよね。やすしといえば、私の友人の横山やすしさんは有言実行の人でした。「このドアホ!」ってね。

 人間というのは、欲には弱いし、すぐ妬み嫉みの気持ちを抱くし、苦しいことを我慢できない。でも、そこが愛おしいし面白いんですよね。七代目談志師匠も「落語とは人間の業の肯定である」とおっしゃっていました。

 次回は、「違いがわからないバカ」をご紹介したいと思います。

林家木久扇(はやしや・きくおう)
1937(昭和12)年、東京日本橋生まれ。落語家、漫画家、実業家。56年、都立中野工業高等学校(食品化学科)卒業後、食品会社を経て、漫画家・清水崑の書生となる。60年、三代目桂三木助に入門。翌年、三木助没後に八代目林家正蔵門下へ移り、林家木久蔵の名を授かる。69年、日本テレビ系「笑点」のレギュラーメンバーに。73年、林家木久蔵のまま真打ち昇進。82年、横山やすしらと「全国ラーメン党」を結成。92年、落語協会理事に就任。2007年、林家木久扇・二代目木久蔵の親子ダブル襲名を行ない、大きな話題を呼ぶ。10年、落語協会理事を退いて相談役に就任。21年、生家に近く幼少の頃はその看板を模写していた「明治座」で、1年の延期を経て「林家木久扇 芸能生活60周年記念公演」を行なう。「おバカキャラ」で老若男女に愛され、落語、漫画、イラスト、作詞、ラーメンの販売など、常識の枠を超えて幅広く活躍。「バカ」の素晴らしさと底力、そして無限の可能性を世に知らしめている。おもな著書に『昭和下町人情ばなし』(NHK出版)、『バカの天才まくら集』(竹書房)、『イライラしたら豆を買いなさい』(文藝春秋)、『木久扇のチャンバラ大好き人生』(ワイズ出版)など。