今年8月、ロンドン五輪女子サッカー日本代表の“なでしこジャパン”が利用する帰国の便がエコノミークラスからビジネスクラスに格上げされたことがちょっとした話題になった。ロンドンへ向かう飛行機で、男子代表がビジネスクラスで移動したのに対して女子代表はエコノミークラスということに「待遇に差がある」「性差別だ」と非難する声があがり、日本サッカー協会が対応したのだ。
この問題が表沙汰になり事態が動いた背景には、とあるウェブサービスがある。それが「Change.org」だ。Change.orgは、誰でも、社会的な運動(「キャンペーン」)を呼びかけ、オンライン上で署名を集めることができるサービスで、現在、196ヵ国に住む2000万人のユーザーが利用している。
「帰りの切符は男女平等に取り扱ってほしい」というキャンペーンを、なでしこファンであり、幼なじみのときに一緒にサッカーをしていた藤本奏子さんと小宮怜奈さんが発信。すると、2週間で2万人以上の賛同者から署名が集まり、世界中のメディアがこの件について報道。英ガーディアン紙にも取り上げられ、決勝戦終了後にはロンドンのオリンピックスタジアムにてBBCによるインタビューも放送されるほど、このキャンペーンは広がっていった。
Change.orgに投稿されているキャンペーンは、このような身近な義憤や要望から、国際社会の関心の高い人権問題や被災者支援まで多岐に渡っている。そして社会問題に対する熱量が高い人々が集まっていることも特徴だ。
例えば人権に関する事例では、ノーベル平和賞受賞者(1984年)であるケープタウン名誉大司教デズモンド・ムピロ・ツツ氏は、同じくノーベル平和賞を受賞(2010年)したにもかかわらず、中国の警察によって拘留されたままの劉暁波氏と、自宅に軟禁されている妻の劉霞氏を解放すべく呼びかけ、38万人を超える署名を集めている。
また、震災に関連する事例では、福島県郡山市に住む母親が、福島県が発表した2012年12月28日で県外の借り上げ住宅の新規受付打ち切りを撤回すべく呼びかけ、9万6000人以上の署名を集めている。一個人がこれだけの署名を短期間で集めるプラットフォームはこれまで確立されてこなかったと言ってよい。
ユーザーが「Change.org」でキャンペーンを行うためには、キャンペーンページを作成する必要がある。まず、賛同者の署名を届けたい相手、働きかける相手に取ってほしい行動、その問題が市民にとって重要な理由を入力する。その後、キャンペーンの詳細であるタイトルや告知するための写真やビデオ、働きかける相手の連絡先・メッセージなどを入力。すると、Change.org上に署名入力用フォーム付きのキャンペーンページが投稿される。とてもシンプルな仕組みなので、想いはあるが、ウェブに詳しくないという人でも参加しやすい。
キャンペーンページが投稿されてから、賛同者を募り、実際に問題の責任者に働きかけるまでのプロセスは草の根的だ。ソーシャルメディアを通じてキャンペーンを告知する、関連するブロガーがメーリングリストに呼びかける、団体や組織を味方につける、責任者の連絡先を突き止め署名を提出する、対話する機会を持つ、想定問答で練習するなど、サイト上ではキャンペーンを成功させるためのノウハウの共有も進んでいる。
厳しい経済・雇用情勢、また自然災害の不安が続く中、いつ自分が社会的に弱い立場に立たされるかは誰も予測できない。厳しい立場の人々への理解と支援を身近に感じることができるChange.orgによって、“社会を変えたい”“問題を抱える人を救いたい”という思いを、現実の行動に移すきっかけがつかめるはずだ。
(岡 徳之/tadashiku & 5時から作家塾(R))