ヒッグス粒子が見つかることの歴史的意味
ヒッグス粒子は理論的にはその存在が予言されていたわけですが、物理学というのは理論が打ち出した予言を実験的に確認して、初めてその正しさが確立されるものです。
そうした実験のためにCERN(欧州合同原子核研究機構)は、スイス・ジュネーブの地下にほぼ山手線1周分に相当する巨大な実験施設LHC(大型ハドロン衝突型加速器)を完成させました。
この研究には1兆円を超える莫大な研究費が投じられ、世界各国から数万人もの研究者が参加しています。実験では、水素原子の原子核にあたる陽子多数を固まりにして、周回27キロメートルものトンネルの中でほぼ光速に近い速度まで加速させます。そして反対向きに同様に加速した別の陽子の固まりと正面衝突させ、その衝突から発生する粒子を丹念に検証することが行われてきました。
そして今年2012年の7月、3年にわたって収集されていたデータを精密に集計したところ、ヒッグス粒子のように見える新粒子が発見されたのです。ここまでの道のりはけっして平坦ではありませんでした。計画の紆余曲折、プロジェクト間の競争、国際政治を巻き込んださまざまな駆け引き……それらの詳細も本書では描写されています。