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データサイエンティストの冒険

アナリティクスは課題認識から。
課題なきところに向上余地なし

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第4回】 2013年1月7日
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 つまり、完全にシステム中心に設計されているだけでなく、アメリカのように主治医制度を施行している他国に比して、制度とIT政策の連携もなく、効果の最大化が難しいと容易に予想される。正直出遅れている感は否めない。

 ITベンダは名寄せ処理だなどと言って、そこに予算措置を求めるのだが、それゆえに本質的な議論から逸脱していき、全く進展のない議論に陥ってしまう。最初から名寄せがないような仕組みを考えるべきなのだが、現場の力が強いことが災いして、部分最適でバラバラに始めてしまっているのが現状で、まず連携させ、その次に来る大きな効果を意識するといった根本の設計思想から外れていることは否めない。連携を力技で実現することが美徳のようになっていて、連携がゴールになってしまっている。これでは本末転倒で、正しい課題認識とはいえない。

 社会インフラ基盤系と同様、医療情報はビッグデータが本領を発揮すべき領域である。医療カルテが取り扱うデータは種類も豊富だが、処理のスピードも必要とされる。緊急病棟などへの入院患者のバイタル情報などは秒単位で捕捉し、異常値をアラート検知していく必要がある。今後は併せてゲノム解析領域も急速に応用が進むと考えられる。

 また、iPodの付属品としてアップルがナイキと共に売り出している、トレーニング時の脈拍数を送信する機器や、血圧、カロリー消費から睡眠状態までを捕捉してスマートフォンアプリを介して可視化させるオムロンのウェルネスリンクなど、最近では個人の日常的なバイタル情報を捕捉する機器も登場している。

 こうした動的な情報に限らず、静的なデータである既往症、検査結果や往診履歴にしても更新処理頻度を上げる必要がある。例えば血糖値を測るHbA1Cの捕捉は、起床時と夕方以降では全く違うし、食前食後でも影響を受ける。有意性の検証をしようとするのであれば、相当細かい時間区分値でのデータ捕捉が必要となるだろうが、食事などのイベント性ノイズを排除するために多項移動平均などの処理をデータセットに入れながら集約処理を入れるなどの業界やデータに固有の専門性を持った処理が必要となる。

 しかし、処理基盤が行政側で一元的に整備されていない国内の現状においては、そこまでの実践的な議論に至っておらず、これもまた企業による部分最適の努力に頼るところが大きい。

 これについては、今年7月に、東大病院とNTTドコモが発表した共同研究に注目している。Felicaを活用した2型糖尿病患者の自己管理支援システムで、このシステムの目的は「糖尿病患者が良好な血糖値を維持するためには、医療機関が、患者に対して継続的に療養指導を行う一方で、患者によるセルフケア体制を整えることが重要である。携帯電話を活用した糖尿病患者の自己管理支援システムを構築することで、医療資源の効率的利用の実現を図る」とある。

 デバイスがこうした制約を崩していく可能性がでてきている点は非常に評価に値する。その一方で、本質的な課題認識ができていないと、デバイス任せ、数理モデル任せの脇道にそれてしまって、目的としている予測モデルなど作れないし、ましてその先にある予防医療政策へ繋げることなどできない。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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