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データサイエンティストの冒険

アナリティクスは課題認識から。
課題なきところに向上余地なし

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第4回】 2013年1月7日
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 日本と欧米の保険制度がもたらすElectronic Health Record(一人ひとりの生涯にわたる健康医療電子記録)に対する情報、アナリティクスの価値の重みが決定的に異なることは言うまでもない。日本のように提供されるのが当たり前の国民皆保険とは違い、前述のように高い費用を支払って選択するサービスなのである。

 つまりアメリカでは、医療に関する情報(患者基礎情報、バイタルサイン、病歴、既往症、家族病歴、免疫歴、検査データ、処方履歴など)やCDSS(Clinical Decision Support System:臨床意思決定支援システム)などの機能は、国民に提供される医療の質を測定・向上させることが意識されている。医療行為において内在する医師と患者の間の情報の非対称性に何らかのチェック機能を持たせることもその意義の一つにある。

 小さな診療所では限界がある初期診断で見落としがちな流行性疾患の情報連携などは、CDSSを通じたアラート機能で確実に医師に確認すべきアラートを出すことで、取りこぼしを防ぐ。このような有事に備える機能に対して国民からの圧倒的な支持基盤が得られるのも自然な話なのだ。CDSSによって地域医療の質の不均衡を乗り越えて、トップレベルの医師の知見が凝縮された4大疾病に対するアラートや、処方時には既往症を考慮した副作用に対するアラートやノートを返すため、医療の質が底上げされる訳だ。

 また、PHRのモバイル患者ポータルは、患者自身に対する登録情報の間違いを自身である程度修正したり、過去の往診履歴や検査結果も全て捕捉可能な仕組みを自分の手元に持つことで、医師が情報の優位性を生み出す医療行為に対する謎を解消して、専門医や別診療所での診断結果の連携をスムーズに促進することもできる。

 こう聞くと凄そうだが、自分の健康に関する情報なのだから、これまで自分で過去履歴を自由に閲覧する仕組みがなかったり、包括的な情報連携の仕組みがなかったのはなんとも不条理な話である。

 このようにアメリカと日本では、国民自身が国政に対して持つ危機意識や関心のレベルが決定的に違う。12月の総選挙の投票率が戦後最低だという事実が、この状況をよく表現している証左ではないか。アメリカのように大統領候補を擁立した各党が一騎打ちし、公開討論で政策の切れ味を競い合い、国民から直接質問を受けたりするような場面もない。国民に課題認識やそれを解決するための政策討議へ参加する機会が与えられず、またその関心がなければ、ゴールとなる国策を達成できないのも同じだ。

 アナリティクスも全く同じだ。課題認識がないところに、仮説設定などあり得ない。このように、課題認識とその解決策の策定があるからビジネスはドライブされていく。日本は一般に技術力の完成度が高い反面、革新性と瞬発力、マーケティングが弱いとされている。またこの弱点部分に共通するのが、合意形成プロセスに求められる速度の極端な遅さだ。相手の立場を重んじるカンバン方式のボトムアップ型である日本企業文化からすると、迅速な合意形成は馴染みにくいものなのかもしれない。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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