私が特に意識したのは、「発言をいかに引き出すか?」というポイントでした。

 会議の最中は、基本的にじっと黙ってPC画面上で「メンバーの状況」や「議論の流れ」を観察していますが、ファシリテーションをしているメンバーが、このポイントで躓いていたり、ほかのメンバーが浮かない表情をしていると感じたら、頃合いを見て、「ちょっといいですか?」と議論に介入して、ファシリテーションを実演してみせていました。

 特に、ファシリテーションで大事なのは、メンバーから本音の意見を引き出すことです。これができなければ、そもそも会議が成立しませんし、参加者もうちに秘めている思いを吐き出すことができず不満が募ってしまうからです。これこそが、会議の質を高める大前提となるのです。

 ただし、ストレートに「Aさん、いかがですか?」と尋ねても、相手は話すとっかかりを見出せずに、黙ってしまうものです。特に、若いメンバーは、先輩たちを前に遠慮しがちですからなおさらです。だから、彼らが意見を言いやすいように、質問に「角度」をつけてあげる必要があるのです。

 そういう工夫もせずに、「あのメンバーは会議で発言もしない」と決めつけるようなことは、絶対にやってはならないと思います。そのようなレッテルを貼られたメンバーは、余計に萎縮して意見を言えなくなってしまうからです。

「本音の意見」を引き出す「質問」の技術

 例えば、「Aさん、いかがですか?」と聞かれたときに、「Bさんと同じです」と返してくる人がいます。そんなときには、「では、Bさんの意見を、自分の言葉で言うと、どんな表現になりますか?」などと質問に「角度」をつけてあげます。

 そうすると、その人なりに話し始めます。しかも、その人の言葉で説明をしようとすると、実は、Bさんとはかなり違った意見であることがわかったりすることが多いように思います。つまり、Bさんの意見に「総論」としては賛成だけど、「各論」では異論もあるということです。

 こういう意見が貴重です。

 なぜなら、ほかのメンバーも「各論」について、さまざまな意見を言い始めることが多いからです。会議が活性化するとともに、議論に深みが出てくるのです。

 このように、メンバーが意見を言いやすくなる質問の仕方には、いろいろなものがあります。例えば、「AさんとBさんの意見を踏まえて、Cさんはどう思う?」と質問をすれば、Cさんには特段の意見がなかったとしても、AさんとBさんの意見に対してコメントすることはできます。

 私は、それまでの経験で身につけてきた「質問の技術」を、こうした場面で実演してみせることで、メンバーたちに経験値を高めてもらおうとしていました。いわば、OJTのようなものです。

 ファシリテーションは実践できなければ意味がありませんから、書籍を読んで学ぶだけではなく、場数を踏みながら実践的に学んでもらうのがベストなのです。その意味で、会議の場は、メンバーを育成する絶好の機会です。管理職は、その観点から会議をデザインするように意識をするべきだと思うのです(詳しくは『課長2.0』をご覧ください)。