ジャパネットたかたの佐世保本社内にあるテレビスタジオを会場に、あの聞き覚えのあるメロディにのせてスタートしたジャパネットたかた創業者(現 A and Live代表取締役)・高田明氏のトークイベント「『ザ・ゴール』から学んだこと」。
あたかもテレビショッピングが始まるかのような雰囲気の中、聞き役のゴールドラットジャパン CEO・岸良裕司氏と高田氏のトークテーマは、2021年に日本発刊20周年を迎えた『ザ・ゴール』の魅力と本質、そして高田氏の経営観、人生観の話にまで及んだ。今回の連載では、できるだけ会場の熱気そのままに、ダイジェスト版として当日語られたことのエッセンスをお届けする。
※本記事は2021年11月19日に特別開催された『ザ・ゴール』日本発刊20周年特別トークイベント「『ザ・ゴール』から学んだこと」をもとに作成しています。

ジャパネットたかた創業者・高田明氏が考える「伝える」と「伝わる」の差とはPhoto: Adobe Stock

人生のなかで読書がおもしろくなる瞬間とは?

 イベント後半はゴールドラット博士の数々の書籍を引き合いに、高田氏の読書法についても話が展開した。

「読書というのは、自分の人生と本の内容が重なってきたとき、一層おもしろくなってきますよね。読書の仕方はさまざまありますが、たくさんの本を読むというよりは、1冊1冊を精読して自分のものにするというのが、僕の読書法です。ですから、みなさんには、ゴールドラット博士の本を何度も何度も読んでいただきたいと思います。

 たとえば、ビジネスのテーマの1つである、売れ残るリスクを取るか、売り逃すリスクを取るかという問題、すなわち、在庫をどう調整するかについては『ザ・クリスタルボール』が参考になります。

 また、事業において、コスト削減は重要な要素ですが、削減した結果が利益につながらないこともあります。そうした課題を抱えているなら、『ゴールドラット博士のコストに縛られるな!』をお読みいただければと思います。

 そして、僕の愛読書の1つともいえるのが、『チェンジ・ザ・ルール』です。僕がこの本を読んだのは、10年くらい前になります。ハワイ旅行に行く数日前にカラスを追い払おうとして塀に登ったあと、2メートルくらいなら平気かなと思って飛び降りたら、かかとを骨折してしまった……。そのため、他のメンバーがハワイでゴルフをやっている間、僕はホテルの部屋にこもってこの本を読むことになったのです。

 今までのやり方を変えていくために、ここまでやるのかというようなことが書かれています。何かを生み出していくにはこのくらい本気にならないといけないと感じた1冊です」

ジャパネットたかた創業者・高田明氏が考える「伝える」と「伝わる」の差とは

「伝えた」と「伝わった」の違い

 1冊1冊精読しながら、本の内容を自分のものにしていく。そんな高田流の読書術を駆使して知識を習得したあと、私たちはどんなアクションを起こせばよいのだろうか。高田氏はスティーブ・ジョブズの言葉を引用しながら次のように話す。

「会場のみなさんは、ゴールドラット博士の本をたくさん読んで、勉強して、知識を習得されていることでしょう。習得したあとは、その知識を眠らせるのではなく、伝えていってほしいと思います。自分がやったものは伝えていかなければもったいないです。

 あのスティーブ・ジョブズさんも、アップルの商品がいかにすばらしいかを伝え続けていました。『伝えなければ、どんなにすばらしいものもないのと同じ』という言葉も残しています。

 では、伝えるときに一番気をつけないといけないポイントは何でしょうか?

 それは、先ほどもお伝えしたように、『つもり』にならないことではないかと思います。

 残念ながら、伝えようとがんばっていたとしても、伝えたつもりになっていることが本当に多いと感じます。企業のケースでいえば、ホームページを作成して、何千万円、何億円かけてコマーシャルを流したとしても、反響がなければ、それは目的を達成したことになりません。どんなにコストをかけても、どんなに時間をかけても、伝えた『つもり』になってしまっては意味がないと思います。

 ですから、みなさんには、『伝えた』と『伝わった』の言葉の違いを意識していただきたいと思います。僕たちは、『伝えた』ではなく、『伝わった』世界をつくらなければならないのです。僕の経験でいっても、一生懸命に商品を紹介しても、その良さが伝わらないと商品は売れない。その度に、10回でも20回でも、100回でもやり方を変えてみました。それでようやく、注文の電話が鳴る。電話が鳴ったときが、まさに『伝わった』瞬間であり、伝わったからこそ、皆様が『買おう』という気になられたのです。

 みなさんも、『伝えた』ではなく『伝わった』世界を実現するためにチャレンジしてください。そのためには『ザ・ゴール』に書かれているように、徹底的に、ストイックにどこまでも仕事と向き合い続けていくことが大切になると思います」

世阿弥に学ぶ伝え方の極意

 ここで高田氏は、「世阿弥」と「テレビショッピング」との意外な関係性について語る。

ジャパネットたかた創業者・高田明氏が考える「伝える」と「伝わる」の差とは

「伝える際のもう1つのポイントは、自分の言い分だけではダメだということです。僕は、世阿弥の言葉に感銘を受けて、能の著名な研究者であられる増田正造先生に監修いただきながら『高田明と読む世阿弥』という本を出しています。日本の伝統芸能である能と通販を一緒にするなと言われるかもしれませんが、僕のなかでは世阿弥が書いていることとテレビショッピングにおいて大切にすべきことが一致したのです。

 世阿弥は、今から600年以上前に、能がこの先100年続く世界をつくっていかなければならないと考え、研究を重ねました。そんな世阿弥が大切にした考え方の1つが『序破急』になります。

『序』は導入部分です。次の『破』でどう展開していくか。そして、『急』で結論になります。

 時には、その場の雰囲気で臨機応変に順序を入れ替えて、序破急の『急』から入ってもいいのですが、序破急という3つを押さえるというのが1つの基本になります。

 テレビショッピングで言えば、『序』は掴み、『破』でその商品の良さを伝え、『急』でまとめ、価格で締めくくります。世阿弥はこの序破急の組み立てによって、能の良さを広く観客に伝え、僕はテレビショッピングで商品の良さをお客様に伝えるための手法として大切にしていました。

 また、伝えるときは『間』も大切です。世阿弥の言葉で表現すると『一調二機三声』がこれにあたると僕は思います。

 たとえば、ここにおいしい日本酒があったとします。久しぶりに実演しましょうか?

 グラスに注がれたお酒を飲んで、『おいしい! 1000円です』と続けていうのではなく、『……めちゃくちゃおいしいですよ』と言ったあとに、意識的に間をあけて「お値段ですか~。1000円です」と言う。この2~3秒くらいの間をおくことによって画面の向こうのお客さんと会話をするわけです。

 コミュニケーションする際の『間』は次の有を生み出す『無』と言われるように、間をとって相手の反応を意識しながら話すことがとても大切です。

 そして、大事なことは何度も繰り返すことも忘れてはいけません。オバマ元大統領の“Yes we can”、あるいは、キング牧師の“I have a dream”のように、何度も繰り返しましょう。

 さらに世阿弥は、『我見』『離見』『離見の見』という言葉を残しています。僕はこれが一番大切だと思います。我を見ると書く『我見』、これは役者自身の視点です。離れて見ると書く『離見』、これは観客が舞台を見る視点。そして『離見の見』は客観的に俯瞰して全体を見る力のことです。この視点を持つのと持たないとでは相手への伝わり方が変わってきます。

 つまり、自分の言い分だけ言うのではなく、相手の存在を意識し、人を感じることができないと、物事というのは伝わらないということですね。

 さらに、コミュニケーションにおいて、言葉だけではなく、非言語(表情や身振り手振りなどの仕草)の力というのは非常に重要だと思います。

 先日、『クローズアップ現代+』に出演したとき、番組内ではコロナ禍のため、就職活動のオンライン面接が難しいという就活生の課題が取り上げられました。

 面接官は映っている画面のなかで、言葉だけでなく、手や指の動き、顔の表情など体全体をどう使っているかを見ています。

 本当にこの会社で働きたいと思っているか、この会社を愛してくれているかをリアルと同様に感じながら判断していらっしゃると思います。

 ですから、伝えるときには言葉だけではなく、『表情』などの非言語も非常に大事なので意識してほしいと思いますと伝えました。

 ちなみに、今日のトークイベントにオンラインで参加なさっている皆さんは、全員が笑顔でいい反応をされていますので、オンラインであっても、リアルで話しているような気持ちになれています」