習慣は不確かさを肥やしにする
顕在意識にとっては、報酬が大きくなったり、より確実(絶対に得られる報酬)になったりすれば、意欲が湧く。だが、習慣は不確かさを肥やしにして成長する。
チョコレートのコインを競り落とすオークションに参加しているとしよう。入札対象は、5枚のコインが入っているとわかっているロットと、3枚もしくは5枚のどちらかが入っているとしかわからないロット。入札が終わるまで、後者のロットに入っているコインの枚数は明らかにされない。
論理的に考えれば、確実に5枚入っているロットに入札したほうがお得だ。だが、現実は違った。シカゴ大学の研究者たちが実際にこのオークションを開いたところ、確実に5枚のコインが手に入るロットへの入札金額の平均は1.25ドルだったのに対し、枚数がわからないロットへの入札金額の平均は1.89ドルだったのだ。
入札した人たちに話を聞くと、中身がわからないロットに入札するほうがワクワクすると答えた。不確かなほうに入札したところで、報酬であるチョコレートのコインの実際の価値が増えることはない。ただ単に、ゲームとしての楽しさが増しただけだ。
楽しさのためにお金を払った参加者たちは、またこのようなオークションに参加したいと言っていた(不確かなほうに入札した参加者は、入札というプロセスにとらわれたと言える。彼らに事前にどちらに入札するつもりか尋ねたときは、確実な報酬のほうを好んだ)。
報酬に関するこうした知見に支えられているのが「ゲーミフィケーション(ゲームの仕組みの応用)」だ。ビデオゲームはたいてい、不確かな報酬を組み込んで、強い常習性を生み出している。
2018年、ビデオゲームは1300億ドルを上回る産業となった。教育ゲームも不確かさを有効に活用している。大学生にゲームを通じてさまざまな概念を学習させ、問題に正解すると、所定のポイントかサイコロを振って出た目に応じたポイントのどちらかを与えた実験がある。報酬がサイコロで決まる(つまりは報酬が不確かな)ときのほうが、学生は答えるのに時間をかけ、より多くの正解を出した。
ゲーミフィケーションは、ありとあらゆる職種の研修プログラムに取り入れられている。戦闘機のパイロット、自動車のメカニック、腹腔鏡手術を行う外科医にゲームを使って技術を教えるときも、バッジやポイントといったさまざまな報酬が用意される。
ただし、不確かな報酬を組み込んだ教育ゲームは少なく、そのせいか、ゲームを使って教えても、その効果は標準的な教育プログラムとさほど変わらない。要するに、脳内の報酬系は不確かさに引き寄せられるのだ。一見すると合理的には思えないかもしれないが、それによってやり続けずにはいられなくなる。
【本記事は『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)を抜粋、編集して掲載しています】