ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。

「ジム通いを続けられる人、続けられない人」決定的な差Photo: Adobe Stock

ジムに通い続けられる距離

 近さという単純な要素で、人を運動に駆り立てることはできるのか? この疑問と向き合ったデータ分析企業がある。2017年の2月から3月にかけて、同社は750万台分の携帯電話の記録を使って調査を実施した(ようやく、私たちの電話の利用記録がこのような形で検証されていることが周知され始めた)。携帯機器を持つ人々が、どのくらい遠くの有料ジムに通うかを分析したのだ。

 ジムから3.7マイル(約6キロ)と中程度の距離に住む人は、月に5回以上ジムを訪れた。だが、ジムから5.1マイル(約8キロ)前後の距離に住む人は、月に1回しかジムに行かなかった。1.5マイル(約2・4キロ)にも満たないのだから、その違いは小さいように思えるが、この違いが習慣的に運動する人とたまにだけ運動する人に分けたのだ。

 顕在意識で、そんな短い距離を障害と認識することはない。だがその距離は確実に、習慣的に運動するかどうかに関係している。

仲良くなるにも近さが重要

 誰と友人になるかまで、距離で決まってしまう恐れがある。1950年に実施された有名な調査で、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生向け住宅に暮らした260名の既婚の兵役経験者の友人関係が検証された。彼らは年度の初めに、2階建ての集合住宅に無作為に部屋を割り当てられた。調査員は全員の部屋のドアからの距離を測定し、誰が誰と友人になったかを追跡調査した。

 その結果、彼らは無作為につながっても、無作為に友情を築いてもいないと判明した。隣どうしや同じフロアの学生どうしで友人になるケースが多く、別のフロアの友人は少なかった。廊下の突き当たりの部屋に住んでいる人も友人が少なかった。通りかかる学生と会う機会が少なかったせいだ。ほかのフロアにも友人をつくった学生は、階段の近くの部屋に住む学生だけだった。

 思うに、この調査は「外的な力を使うと社会生活を有利にできる」と教えてくれるものではないか。たとえば、新しい町に引っ越して知り合いをつくりたいときは、推進する力と抑圧する力の助けを借りることができる。集合住宅で部屋を借りるときは、建物の入り口に近い部屋にすれば、自然と多くの人と接するようになる。新しい仕事に就いたときは、オフィスの中央に近いデスク、もしくはオフィスの休憩所のそばを自分の席に選べば、職場の人たちとの交流に対する摩擦が減る。

 子どもは自然と摩擦を減らしてくれる存在で、子どもがいると、子どもの学校の活動を通じて近所の人との交流が生まれる。こうした力は「離岸流」のようなもので、望む体験の元へ連れて行ってくれるとともに、望まない体験を遠ざけてくれる。

【本記事は『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)を抜粋、編集して掲載しています】