私たちの人生には、就職や転職、結婚といった一大イベントから、日常における小さな出来事まで「正解のない問題」が無数にある。そうした問題に直面した時に、他人の意見に流されずに「自分だけの意見」を持つ方法を知っておくことは、自分らしい人生を歩んでいくために非常に重要だ。人気社会派ブロガーのちきりんさんの最新作『自分の意見で生きていこう』は、そうしたメッセージと方法論をまとめ、大きな反響を呼んでいる。
そこで今回は、同書の刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の質疑応答の模様を、全2回のダイジェストでお届けする。「意見を持つこと」「自分だけの人生を生きること」についての切実な質問への回答は大いに参考になるはずだ。(構成/根本隼)
「意見を言う=ポジティブなこと」
Q1. 「論理思考」「マーケット感覚」「生産性」「意見を言うこと」という4つの能力をちきりんさんが身につけたきっかけや過程が知りたいです。
ちきりん それぞれ様々な環境で身につけました。まず、「論理思考」の基礎については、留学後に転職した外資系企業でみっちり叩き込まれました。
「生産性」を強く意識するようになったのもその頃で、海外の人がダラダラ残業せず、きっちり仕事を終わらせる姿をみたのがきっかけです。
一方、「マーケット感覚」については、最初に働いた日本の証券会社で身につけました。
「意見を言うこと」に関してはずっと早く、小・中学生の頃から自分の意見を積極的に発していました。ただ、その頃の日本では意見をはっきり述べることは時にネガティブに捉えられていたと思います。こちらはアメリカ留学時代に世界中の人と日々議論することを通して、「意見を言う=ポジティブなこと」と考えが変わりました。
自分の意見を発信し続ける方法とは?
Q2. 日本のような同調圧力の強い社会で、排除されることなく、自分の意見を言い続けるノウハウを教えてください。
ちきりん 特に叩かれやすいのは、意見が完全に二分しているようなことなんです。だから自分の人生や生活にあまり関係ない事柄なのであれば、わざわざ他者に意見を表明する必要性は低いんじゃないでしょうか。
一方、就職や転職先の選択のように、自分の人生に深く関係することなら、どんなに反対されてもきちんと意見を述べないといけません。でないと、自分らしい人生を歩めなくなってしまいます。
自分の人生にとって「本当に大切なことなのだ」と思えるテーマにしぼって意見を言えば、その真摯さが伝わるので、叩かれないし、排除されにくいと思います。そうしているうちに伝え方のスキルや表現力も自然と身につき、自分にそこまで関係ない問題に関しても意見が言えるようになると思います。
自分の意見を確立するには「1人で考える時間」が必須
Q3. 自分の意見が二転三転してしまいます。意見をコロコロ変えないで済むようなアドバイスはありますでしょうか。
ちきりん あたらしい事実を知ったり、より深く考えたりすることで意見が変わることも多いので、意見が変わるのはまったく問題ないと思います。
もちろんもし可能なら、他者の意見を聞く前に自分の頭の中で何度も考え、意見をどんどん変化させて、結果としてしっかり定まった意見になってから他の人に言えれば一番いいですよね。そうすると、意見を変えたことに誰も気づきません。私もツイッターなど身近な表現ツールでは頻繁に意見を変えますが、書籍に書くのは最終的にしっかりと「これが自分の意見だ!」と固まったものだけです。
しっかりした意見を確立するには、自分1人で考える時間が必要です。加えて、友達や家族との議論を通じて自分の意見がコロコロ変わるプロセスを意識しながら、「どんな意見を聞くと自分の考えが変わりやすいのか」ということに気づけると、自分の思考の穴が客観視できて次に活かせると思います。
重要な決断をする時に役立つ思考法とは?
Q4. 日常生活で自分の意見を整理するトレーニングとして、2×2のマトリックスで考えるように意識しています。比較対象が3つ以上の時は、どのように工夫すれば意見を整理しやすくなりますか。
ちきりん とても大切な質問ですね。何を選ぶにしても、判断軸が10個ぐらいあるのが普通でしょう。例えば家を買う場合の判断軸は、価格や広さ、古さに駅からのアクセス、間取りや断熱性能など、ぱっと思いつくだけでも10個は超えそうです。
でも2×2のマトリックスで考えるには判断軸を2個に限定しないといけないので、それらに優先順位をつける作業が必要です。つまり、10個の判断基準があるならば、1~10位までの順位づけを行うのです。家を購入する場合などは、家族全員がその優先順位に合意する必要があるので、よく話し合うことが大切ですね。
優先順位が決まったら、まず2×2のマトリックスで、1・2位の軸を使って物件を選びます。次にそれらしぼり込めた物件を、今度は2位と3位の軸のマトリックスを使ってさらに取捨選択します。これを繰り返すと、最終的に1つを選び出すことができます。転職先や自分の専攻分野の選択など、大切な判断をする際にはとても役立つ方法だと思います。
体力がないのはむしろラッキーなこと
Q5. 残業が多く、通勤と家事育児で毎日が終わってしまいます。組織に頼らず生きていけるように、スキル・キャリアアップを目指そうとしていますが、体力が足りません。ちきりんさんは、限られた時間で最も必要な行動は何だと思いますか。
ちきりん まず、体力がないということは、非常にラッキーだと思いますよ。体力がある人は、物事を体力で解決しようとして徹夜をするなど無理をしがちですが、それでは生産性はあまり上がりません。
お金がなければ節約方法を色々考えるのに、お金がたっぷりある時は適当に買い物をしてしまい、倹約スキルが全然上がらないのと同じですね。
実は私も、体力がありません。だからこそ、本当にやりたいことは何かと考え、優先順位をつけて、限られた体力という希少資源を何に使うべきか一生懸命考えてきました。
体力がないことを前提に、「仕事に使えるのは●時間、家事に使えるのは▲時間」と自分の上限を定めると、何を優先すべきか明確になります。結果として皿洗いの暇がないなら食洗機を買ったり、掃除の時間がなければロボット掃除機を買ってみたりと、体力を補える方法を考えてみてはいかがでしょうか。
既存の常識にとらわれず自由に発想する方法とは?
Q6. 手に入れたい人生を考える際、どうしても従来の常識的な考えが頭をよぎって一歩を踏み出せないことがあります。思考の枠組みを取り払うにはどうしたらいいでしょうか。
ちきりん 規格外の人をたくさん見る、もしくはそういう人が多くいるところに行くのがいいんじゃないでしょうか。「インドに行って人生観が変わった」とよく聞きますが、これは、インドのように日本と全く価値観が異なる場所に身を投じると、自分の常識が相対化されるからでしょう。
より卑近な例だと、似たような人ばかりが集まっている会社から、多様な経歴の人がいる会社へ転職するだけでも、色々な発見があるはずです。
転職となると大きな決断になってしまいますが、例えばオンラインコミュニティへの参加くらいであれば、より気軽にできるのでおすすめです。無理のない範囲で場所や環境を変えて、自分がこれまで付き合ってこなかったタイプの人と接してみると、縛られがちな発想が広がっていくと思います。
(後編に続く)