社長とお会いしてお話を伺ってみると「うちのような地域の中小零細企業がいい人材を確保するためには、他社との差別化を図っていかなければいけない。当社は社員の福利厚生の充実につながることであれば、積極的に取り入れていきたい」とのこと。

中小企業退職金共済制度との折り合いは?

 企業型確定拠出年金のことは知っていたものの、中小企業では導入ができないものだと思い込んでいたそうで、少人数からでもできることをご説明すると、もともと福利厚生意識の高い社長でしたので大変意欲的なご返事をいただきました。

 ただ、もともと中小企業退職金共済制度(中退共)をやっていたので、そことの折り合いをどうしていくかがポイントでした。よりよい企業型確定拠出年金を始めるにしても、中退共を急にやめることは従業員から反発にあいやすいため慎重に進める必要がありました。

 また、企業型確定拠出年金は、運用を従業員自身がやっていかなければいけません。お話をうかがう中で、従業員たちは、そこまでお金や資産運用に対して関心が高いというわけではなかったので、いきなり全ての運用を委ねるのは、従業員にとって負担になると感じました。

 これらの事情から、私は、中退共はそのまま走らせながら、企業型確定拠出年金は従業員の給料の中から、やる、やらないを選択できる形での導入を提案しました。

 すると社長は、こうおっしゃいました。

「現実的に考えて、一気に中退共から企業型確定拠出年金に切り替えるのはハードルが高い。ただ、岩崎さんのご提案だと、企業型確定拠出年金をやらないという選択をした人は、結局資産運用に触れることがなくなってしまう。

 なので、会社から全員に一部上乗せで出してあげて、その部分の運用に関しては社員にきちんと考えてもらうようにしたい。そのことで、全員にきちんと資産運用に向き合って、慣れていってもらいたいんです。そして、ゆくゆくは全てを企業型確定拠出年金に切り替えていきたい。そんなことはできますか?」

 私は、「もちろんできますよ!」と即答。結果的に、全従業員に3000円を一律で会社から拠出して、5万2000円を従業員の給料の中からやるかやらないかを選択できるような仕組みで導入することになりました。