現役学生やOB/OGらのナマの声を取材し、20年超にわたって毎年刷新しているロングセラー書籍の最新版『大学図鑑!2023』。本連載では、82校を500ページ超にわたって詳細に解説しているが、その一部をご紹介していこう。学部ごとの詳しい情報や口コミミニ情報などは本書をご覧いただくとして、大学の雰囲気や文化が良く伝わる部分のみ抜粋した。
懐の深さと自虐文化が我らの美学!多様性も受け入れる早稲田イズム
■歴史と基本的な立場■
1882(明治15)年に大隈重信が創設した東京専門学校が起源。日本を代表する政治家、財界人、文化人、芸能人たちを生んできた、なんだかんだ言っても日本一のメジャー私大。
■学生の気質■
格好つけず、飾らない性格。あえてバカなふるまいをすることに美学を感じている。個性豊かな学生が勢ぞろい。学園祭やサークル活動の活発さは日本一。
■世間の評判■
年配者は、アカ抜けない田舎者の集まりというイメージを抱く。若者からは、ダサい印象はなく、親しみやすいと思われている。早稲田の学生街文化に憧れる人は多い。
■早大生の生活と性格■
それでもワセダな空気はワセダにしかない
ワセダと言えば「在野精神」、早大生と言えば「バンカラ」とされてきた校風は、すでに遠い過去の話。
そもそも、「“バンカラ”ってゲタを履いている人のこと?」というくらいの認識の学生が多数派で、意味を正確に理解している人は絶滅危惧種。キャンパスを眺めてもミッション系大学のようなおしゃれな学生がたくさんいるし、「放任教育」の退潮とともに「学校の勉強」に勤しむ学生も増えてきた。
ただ、本質は昔と大きく変わってはいない。「早稲田らしさとは何か?」と学生に聞くと、「多様性」「バカさ」と返ってくることが多いのが、その証拠だ。どんな発言やふるまいをしても、許される寛容な空気がそこにある。人前で格好つけて、自らをよく見せようとするよりも、むしろ自虐して笑いを取る美意識がある。さらに、そういった早稲田イズムに対して、同じ学生から「東大・慶應よりも下の自覚があるから、わざとバカぶって目立とうとしてる」など批判の声があがるところも、何とも早稲田らしい。
●懐具合…地方出身者の家賃は6万~8万円台が相場。以前は全国各地から学生が集まっていたが、今は約4人に3人が首都圏の高校出身者で、昔のような貧乏学生も減った。とはいえ、4人に1人は奨学生で、バイトに励んで学費や生活費の足しにする学生はそれなりにいる。卒業後5年間の返還金の延滞者数が早大の卒業生は慶大の3倍以上もいるとのデータもある。内部生は総じて裕福だが、あまり格差を感じることはない。遊びや飲み会などもコスパ重視で、贅沢や無駄遣いはしない傾向。しかし、たまにパチンコやスロットなどにハマったりして、学生ローンに頼ってしまう人も。
●イベント…11月に開催される「早稲田祭」は、講演会、映画、演劇、音楽演奏など企画がいっぱいで、有名人の出演も多数。他大学の学生や一般の来客も多く、2日間で毎年約18万人を集めている。昔を知る人からは「以前と比べたらダメになった。酒も売ってないし」という声もあるが、日本有数の規模を誇る学園祭であることは間違いない。最も早稲田らしい男を決める「早稲田王決定戦」は、早大生の過剰な自意識がみなぎる恒例企画。ゲテモノ料理の早食い競争を見て、学生たちは大はしゃぎ。西早稲田キャンパスでは「理工展」、所沢キャンパスでは「所沢キャンパス祭」が開かれる。
●サークル活動…総数は、公認団体で約500。非公認団体で、約3000といわれている。たとえば、音楽サークルだけでも、ロック、フォーク、ジャズ、クラシック、コーラス、作曲、プレイヤー、鑑賞、口笛、チンドン屋など、思いつくだけのあらゆるジャンルが存在。1年次は9割の人がサークルに加入する。学年が上がるにつれて徐々に辞めていく人も増えるが、サークルの居心地のよさに骨抜きにされる学生も数知れず、留年する一因にもなりやすい。
●飲み会…酒は相変わらずよく飲んでいる。高田馬場の居酒屋がホームグラウンド。基本的に質より量を重視し、バカ騒ぎを好む。居酒屋の「だるま」には大宴会場があり、早稲田生の主戦場。毎日23時ころになると、馬場の駅前ロータリーに酔っぱらい学生が集結してカオス状態だったが、今は未成年の飲酒やアルハラの指導が厳しく、健全に盛り上がっているようだ。所沢の学生たちは所沢か、池袋で飲む。
●校歌…昔の早大生は『都の西北』や『紺碧の空』を合唱することで知られた。でも、今は『都の西北』は歌詞があやふや、『紺碧の空』に至っては全然歌えない人が多数派。とはいえ、余裕で歌えるタイプもいて、飲み会のシメやカラオケに行った際に熱唱する。所沢生には歌う文化はほぼない。
●女子学生…今や、実に学部生全体の4割近くは女子。早稲田の女子は「ワセ女(ジョ)」と呼ばれ、その性質は「一人でも生きていけそう」「女の何かを捨てることに誇りを持ってそう」「油そばが大好きで、大酒飲み」などと言われてきたが、最近はその印象に変化が見られる。頭が良くユーモアもあるワセ女は、一緒にいて楽しく、恋愛対象としても男性からの人気が急上昇。本人たちは自虐的にワセ女という言葉を使うが、そのサバサバ感も魅力となっている。一方、早稲田の男子「ワセダン」は「おおらか」「行動力がある」「騒ぐのが好き」「変わり者が多い」「授業はサボりがち」といったイメージを持たれているようだ。
●恋愛…彼氏や彼女との出会いは圧倒的にサークルが多く、早稲田キャンパスの男子学生は、地理的に近い日本女子大や学習院女子大の学生と付き合うことが多い。とはいえ、近年では学内カップルも増えているそう。「慶應ボーイという言葉はあるのに、早稲田ボーイという言葉がない」と拗ねる男子学生もいるが、「恋愛したい大学は」というアンケートで上位にランクインするなど、男女共モテる可能性は高い。
■ホンネの就職状況■
一流企業ともなれば、東大や一橋、東工大という難関国公立大学の学生もライバルとなる就職活動。しかし、毎年その戦いに勝ち残る卒業生は多く、早大が社会から高く評価されているブランド大学のひとつであることは間違いない。そんな中でも何かと比較されやすいのが慶大。早大が慶大に少し及ばないのは、「三田会」の威力かコミュ力の差か。OB・OGの数も多くネットワークがあるので、希望する業界の先輩を頼って情報を得ることもできる。3浪以上(2浪+1留なども同じ)や、マスコミなど難関狙いや人格的に難あり以外なら、まずあぶれることはない。女子はそれなりに大変だが、志望枠を広げれば、そこそこ納得できる結果が得られるはず。
人事担当者の間では「大学のネームと見合わない学力レベルの学生がいる」と見なされている実情も。また、学部による差は多少ある。政経、法、商、理工3学部あたりの実学系学部はやはり強い。文、文化構想や教育、社学は一段落ち。人科は知名度自体が低いので苦戦を強いられるうえ、場所がら都心部での就職活動自体がしにくい。また、就職で「不利」と言われている学部生は、先入観から頑張る前に諦めてしまう傾向があるため、「危機感」を「覚悟」に変えて臨む必要がある。
起業する学生をサポートする体制も整ってきており、2019年には、早稲田発のスタートアップを支援するための学内ファンドも整備。2021年には、アントレプレナーシップセンターをスタートさせ、ベンチャー創成の支援機能をより強化させると発表した。20年度の起業数は慶大と並んで10位に入るなど、学生起業も加速。多様な人材が連携して起業できる仕組み作りが進んでいる。