習慣の断絶のあとの行動が重要

 これらの例から、習慣が断絶することの威力の強さがよくわかる。断絶が起こると、生活における習慣と意思決定のバランスが変わる。習慣が破壊されれば、人は考えざるをえなくなる。そうして考え始めたら、人生が面白くなったり、自分の価値観や興味にもっと近づいたことを行えるようになったりする。

 ただし、断絶は有益な習慣を破壊しかねない。それに習慣の破壊はあくまでも、変わるための最初の一歩でしかない。断絶はまっさらの状態を生み、古い習慣を過去のものにするが、断絶を自分に生かせるかどうかは、断絶が起きたあとに何をするかにかかっている。

 習慣の破壊について理解を深めれば、変化を乗り越えて良い習慣を守れるとともに、破壊を利用して悪い習慣の急所にとどめをさせるようになる。本書で取り上げた断絶は、人生では歓迎されないことが多い。失職や引っ越しは、安定した状態を大きく揺るがしかねない。しかし、習慣の視点からとらえると、そういう変化は自分を変える絶好のチャンスでもあるとわかるはずだ。そのチャンスを生かせば、ずっとなりたかった自分に本当になることも夢ではない。

 断絶が起きると、人は柔軟になり、習慣的な自己が主導権を握りやすくなる。現状が破壊されると、現実を突きつけられる。その後何を生み出すかは、すべて自分しだいだ。

 破壊がもたらす結果を自分に都合のいいものにするためのヒントをひとつお教えしよう。自宅で数日間、いや数時間だけでもいいので、インターネットが使えない状況になった経験はあるだろうか? あるいは、友人に海沿いの古い別荘に招かれたら、1997年に製造されたWi-Fiルーターしかなく、オーブンレンジと電波干渉を起こしてつながらなかった、といった経験でもいい。

 ここまで読み進めたみなさんなら、「Wi-Fiがつながらないなら、マティーニを飲めばいいじゃない!」とはならず、それが貴重な時間であると気づいたはずだ。Wi-Fiの断絶による破壊が起きたあとにとる行動は、新たな道を切り開く最初の一歩となるかもしれない。今後も続けたい何かをその場で考えて実行に移す、またとないチャンスだ。

 例をあげよう。別荘に誰かが昔忘れていった古い版の『白鯨』を、何気なく手にとって読み始める。数ページ後には、Wi-Fiがつながらない苛立ちはどこかへ消え去っている。多少の罪悪感を認めつつ、もう何年も古典文学に目を通していなかったことに気づく。そのときにはもう、読書という新たな習慣が形成され始めている……。読書を始めることはいつでもできるだろうが、破壊のおかげで優れた小説を読む楽しさに気づけた、ということがあるかもしれない。

【本記事は『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)を抜粋、編集して掲載しています】