ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。

【科学で解明】アスリートの移籍とパフォーマンスの変化Photo: Adobe Stock

アスリートの移籍とパフォーマンスの変化

 メジャーリーグベースボールは統計が大好きだ。そのおかげで、選手の移籍というよくある出来事によって生じる習慣の破壊の影響を測定するのに役立っている。

 所属する球団が変われば、習慣を発動するさまざまな合図が破壊される。チームメイト、プレーする球場、コーチ、球団経営者、ファン、住居にまつわるすべてだ。移籍によって選手のパフォーマンスも変わるかどうかを確かめるべく、2004年から2015年にかけて、球団を変わる前の数シーズンでパフォーマンスが下降の一途をたどっていた422名の選手を分析した報告がある。彼らはみな、変わる必要に迫られた一流のアスリートたちだ。

 調査を行った研究者たちは、球団を変わる前後の打率と出塁率を算出したほか、総合的な攻撃力をほかの選手と比較した。パフォーマンスが下がって球団を移った選手は、その3つの指標のすべてが移籍後に大幅に改善していた。打率を例にあげると、移籍前は0.242だった打率が、2年後には0.257に上がっている(3400万ドルというトップクラスの年俸を得ているメジャーリーガーのマイク・トラウトの平均打率は0.312だ)。

 一方、同じようにパフォーマンスが下降傾向にありながらも球団に残留した922名の選手は、彼らに比べて向上率はごくわずかでしかなかった。一部の選手の移籍は本人の意志によるもので、フリーエージェントとなって別の球団へ行くことを選んだ。ほかの選手は球団によってトレードされた。だが、習慣の断絶は変更の理由に関係なく作用し、パフォーマンスの向上に伴い新たな合図が生まれた。ここでもやはり、破壊は良い習慣にも悪い習慣にも同じように作用を及ぼしたのだ。

 研究者たちはさらに調査を進め、シーズンを経てもパフォーマンスが安定もしくは向上した状態で球団を移籍した290名のメジャーリーガーを追跡調査した。彼らの場合は、移籍は役に立たなかった。むしろ、打率をはじめとする攻撃力の指標となる数値は下がった。

 たとえば、移籍前は0.276だった平均打率が、2年後には0.263に下がっている。この低下率は、過去のパフォーマンスの推移が似ていて同じチームにとどまった1103名の選手に比べてはるかに大きい。やはり、フリーエージェントとして移籍したか、球団にトレードされたかは関係なかった。状況の変化によって優れたパフォーマンスが破壊され、選手の成績は悪化した。彼らにとっての隣の芝生は、実際には青くなかったのだ。

 すでに成功を手にしている選手にとって、環境の変化はパフォーマンスを下げるものとなった。非生産的な状況という枠内から解放された選手は、習慣が大きく影響する不調から脱した。彼らはみな厳しいトレーニングを積んでいて、成果主義である。それを思うと、新しい球団環境を生かせたのも納得がいく。だが、習慣の断絶は、習慣が大きく影響する成功を破壊する恐れもある。プロのアスリートであってもそれは変わらない。

 事実、パフォーマンスがのぼり調子の状態で別の球団に移った選手のパフォーマンスは下がっている。