ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。

【ダイエット】食欲を抑えるための単純すぎる1つの方法Photo: Adobe Stock

「近さ」は人の行動を左右する

 状況の影響を自分に有利に取り入れるなら、もっとも手軽にできるのは「純粋な近さ」の活用だ。近さは、自分が接する外的な力を決定づける要素となる。人は自分の近くにあるものとかかわり、遠いものを見過ごしやすい。

 ラボで条件を管理して実験を行えば、食べるものに近さがいかに重要であるかがよくわかる。仮に、ラボのキッチンでのテイスティング実験に参加することになったとしよう。調査員に案内されてキッチンに入ると、調査員は「ちょっとアンケート用紙をとってきますね。そうそう、そこにある食べ物は、あなたのために用意したものですから」と言ってキッチンから出ていく。そこにはボウルが2つある。ひとつにはバター味のポップコーンがいっぱい入っている。もうひとつはリンゴをスライスしたものだ。

 あなたはその場に6分間ひとりきりになる。ある日の実験では、ポップコーンの入ったボウルが、テーブルの手に取りやすいところに置いてある。約30センチの距離だ。リンゴのスライスはカウンターに置いてある。見える位置ではあるが、立って取りに行かなければならない。

 別の日の実験では、リンゴがテーブルに、ポップコーンがカウンターに置いてある。さあ、あなたならどうする? 何を食べてもいいのだから、置いてある位置に関係なく自分が食べたいと思うほう(おそらくはポップコーン)を食べて当然だ。だがこのケースもまた、人の直感が正解とはならない。

 立ち上がって取りに行く必要がなくなったら、ポップコーンを食べる量はどのくらい増えると思う? 実験を通じて、かなり増えると判明した。実験に参加した人たちは、リンゴが手の届くところにあるときは、約50キロカロリーしか摂取しなかったのに対し、ポップコーンの入ったボウルが手の届くところにあると、その約3倍のカロリーを摂取した。

 この実験における摩擦は、「距離」という単純極まりないものだ。高カロリーの食べ物を、手を伸ばしてもギリギリ届かない場所に置くだけで、参加者にとっては相当の摩擦となった。手は届かなくても、ポップコーンは視界にあり匂いも感じたが、距離が遠いというだけで食べる抑止力となったのだ。