ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊、『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。
お金をもらえたら、人は痩せるのか?
6カ月の減量プログラムに27人の女性と4人の男性が参加したケースを見ていこう。
プログラム開始時の彼らの平均体重は209ポンド(約95キロ)で、月に1回体重を測定し、前回の測定より4ポンド(約1・8キロ)減っていたら100ドルもらえた。そのお金は自動的に本人の銀行口座に振り込まれる。これほど大きな報奨があっても、大きな成果は生まれなかった。
6カ月で彼らが落とした体重は、平均5ポンド(2・3キロ)前後である。とはいえ、お金には一定の効果があったと言える。報奨金が発生しない条件で減量に取り組んだ32名のグループより成果が上だったからだ。
こちらのグループは、報奨金がもらえたグループとまったく同じ減量プログラムに参加し、毎月自分で目標数値を定めて達成したかどうかを確認した。6カ月かけて、彼らの体重は1ポンド(約0・5キロ)前後しか減らなかった。
この実験が終了して3カ月がたつと、参加者の体重がまた増えた。報奨金ありのグループの体重が元に戻り始めたのだ。
プログラム開始時の体重にあと2ポンド(約0・9キロ)のところまでリバウンドし、1ポンドしか減らなかった報奨金なしのグループとあまり変わらない状態になった。いったい何が起きたのか?
この実験は非常に意欲的で、称賛に値する部分が多々ある。何と言っても、9カ月にわたって参加者の体重を測定し続けたことは大きい。だが、健全な食習慣を参加者に身につけさせることはできなかった。
「報酬」は取り入れ方次第
習慣の形成についてすでにわかっていることを思えば、失敗の原因は容易に想像がつく。問題は、繰り返しと報酬の取り入れ方にある(おそらく状況も問題の一端ではあるが、詳しく言及されていない)。
このプログラムには、繰り返しがほとんど取り入れられていなかったと思われる。参加者はきっと、減量についてあまり考えずに毎月取り組んでいたのではないか。測定日が近づいたらダイエットを始める、という具合だったのだろう。測定の前日に断食していても不思議ではない。なにしろ100ドルは大金だ。
そういう形で体重を減らしていったから、参加者たちは新たな食習慣を繰り返すことをしなかったのではないか。顕在意識にしてみれば、そういう繰り返しは無意味だ。たまに断食しようと、たまにダイエットを無視しようと関係ない。摂取カロリーさえ減らせばいい。だが習慣を形成したければ、自動的に行うようになるまで同じ行動を繰り返す必要がある。
報酬についても最適ではなかった。報酬をもらえるタイミングが各月の最後だったことから、特定の行動を実践したこととの関連づけはほとんど生まれなかった。ダイエット中に報酬について考えることはあっただろうが、そういう時間を除いては、報酬は状況と反応の結びつきを脳内で固める役割を担えなかった。
その結果、新しい習慣は形成されず、新たな行動は定着しなかったのだ。
顕在意識(と多くの経済学者)からすると、大きな報酬には効果があるはずだ。体重を落としたら毎月100ドルもらえる、今週の締切を守ったらご褒美にコンサートのチケットを買う、といったことは高い動機づけにはなりそうだが、習慣の形成には作用しない。そういう報酬では、行動と結びつけるには足りないのだ。個別の報酬を大きくしても、習慣の形成は促されない。