「世界一面白くてお金になる経済講座」を上梓した南祐貴(セカニチ)氏にとって、レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長CIOの藤野英人氏は、「長期投資の魅力を教えてくれた恩人」なのだという。南氏は藤野氏の唱える長期投資について学び、実践し、情報を発信することで今日の地位を築いた。南氏は出版の報告も兼ねて、東京丸の内のレオス・キャピタルワークスへお邪魔した。やや緊張した面持ちの南氏の前へ、リラックスした表情の藤野氏が現れ、和やかな対談が始まった。(構成/ダイヤモンド社・亀井史夫、撮影/高須力)
「南さんの本、すぐに10冊注文しました。本当ですよ」
南祐貴(以下、南) 改めて自己紹介させてください。私、南祐貴と申しまして、平成元年生まれの32歳です。もともとは大企業のサラリーマンで、辛い社畜生活をしていたんです。「どうにかして辞められないかな…」とずっと思っていたんですね。そんな時、漫画『インベスターZ』(三田紀房)を読みました。第3巻の巻末のインタビューで藤野英人を知ったのが2014年です。いま振り返ってみると、そこが人生のターニングポイントでした。おかげで僕の人生が、2014年から2022年の8年間かけて、ガラッと良い方向に変わりました。本当に感謝しています。
藤野英人(以下、藤野) 何回か、リアルでも会っているよね。ホテルのパーティだったかな? そこで、「僕、藤野さんのファンで」って話しかけられた気がするんだけど。
南 渋谷のhotel koe tokyoですね。覚えていらっしゃったんですか。嬉しいです。
藤野 この『世界一面白くてお金になる経済講座』よかったね。10冊買いました。本当ですよ。
南 ありがとうございます。藤野さんという偉大な投資家の方に、そう言っていただけるのが、もうびっくりというか、光栄でございます。
藤野 僕は何に感動したかっていうと、新しいことは一つも書いてないけど、大事なことが全部書いてある!
南 ありがとうございます。一番嬉しい褒め言葉です。
藤野 それは要するに、編集力があるっていうことだよね。新しいことを発見することも素晴らしいけれども、大事なことをちゃんとわかりやすい言葉でまとめて伝えるっていうことは、すごく大事。それこそ情熱がないとできない。あと、多くの人が何がわかっていて、何がわかってなくて、何に困っているんだっていうところがわからないと、こういう本は書けないんですよね。だから逆にいうと、南さんのほうが僕より専門家でない分だけ、余計わかる。
南 私は知識ゼロの素人でしたので、常に一般人目線で考えるようにしてます。
藤野 そうそう。それは非常に強みで。南さんの持っている情熱と、編集力と、それから素人力みたいなのが全部あるから、世界一ユニークなものになったっていうのが、この本だと思うんですね。あと、イラストや図版が多いので非常に読みやすい。これは、初めて投資とか経済について知りたい人には、ぜひお薦めしたい。自分の本よりもお薦めしたいと。
南 いやいやいや……(笑)。
藤野 最初にこれを読んでから、次に僕の本を読んでみたいなね。『投資家が「お金」よりも大切にしていること』とのセットで見ると、たぶんすごくいいかなと。あれはもう少し、投資についての向き合い方について書いてある本なので。行動を促したあとに何をしたらいいんだっていうところに関しては突き放してるんでね。
南 なるほど、自分で考えなさいと。答えはないですからね。
藤野 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』は、投資とは何か、投資というのはマネーゲームじゃないですというところを腹落ちしてもらう本。一方、この本は投資をしてからの向き合い方もちゃんと書いている。どうやって行動につながっていくのかに関しては、非常にスタンダードだし。
南 ありがとうございます。なぜこの本ができたかをお話すると、すべてはSNSなんですよね。主にインスタグラムにすごく時間を使っています。毎日50通ぐらい、いろんな人からDMが殺到するんですよ。それを全部返しているんです。
藤野 修行だね。
南 毎日のDM返信を通じて、「〇〇って自分にとっては常識だと思っていたのにフォロワーさんから驚かれるんだ!?」とか、「これが喜ばれるんだ!?」っていうことが何回もあって。それを毎日、おそらく3年ぐらい繰り返していています。なので、素人力があるのだと思います。知識が何もない方々、専業主婦をやっていて子育てに毎日忙しい方がどういうことに悩んでいて、どんな不安があって、なぜ投資が始められていないか…という一般的な感覚がわかるようになりました。
藤野 南さんは、わからない人が何がわからないかを一番わかっているんじゃないかな。『世界一面白くてお金になる経済講座』を書いた南さんの世界一なところは、たぶん世界一、勉強したことのない個人投資家の気持ちがわかる人。実は、その世界一っていうのはあまりいない。世界一の投資家になるとか、世界一株を売るとかいう人は結構いるんだけど、意外と大学の先生であっても、プロのファンドマネージャーであっても、何も知らない人の情報をわかっている人って、あまりいないんだよね。むしろそういう人を客にしてなかったっていうところがある。お金がなくて、かつ、お金を貯めなければならない人で方法がわからない人こそ、実はお金の知識が必要なんだよね。でも、人に対してアプローチするインセンティブを持っている人があまりいない。
南 いないですね。発信してもお金にならないから、発信する人がいません。
藤野 だから南さんの本は、その課題に対して向き合ったというところが、すごくよかったと思う。
南 まさに、そのとおりでございます。僕自身の原体験として、まったく裕福ではない家庭出身でした。もっとお金あったらいいのになって、小学生ぐらいから思ってたんですよ。コンビニでも50円の買い物を渋るぐらいの価値観で。なんで友達はみんな100円の飲み物を買うのかわからなかったのです。大学生になっても、お金のコンプレックスはずっとぬぐえなくて。社会人になってから調べ始めて、「自分が小学生のときに株を知っていたら、たとえば20年前にアマゾンやアップルやマイクロソフトの株を買っていたら、いくらになっていたんだろう…」って計算してしまう。
藤野 多くの人はね、60歳になるまで実はお金の勉強したことない人が多い。いまは65かな。要するに、退職金をもらうまでお金と向き合わない人が多い。初めて証券口座を開いたときはいつかっていうと、60歳とか65歳が多い。なぜなら、退職金が振り込まれたから。
南 なるほど。この数千万円どうしようみたいな。
藤野 そう。投資の勉強をしたことがない人がすごく多い。僕らが自然とお金の知識を習得する機会を、普通に生活していて自然に得ることがないんだよね。そういう場がほとんどない。下手をすると退職金もらうまで気がつかない。たとえば、株式とか投資信託ってどこで買えるかという話で、アマゾンとかメルカリで買えると思っている人が結構いるんだよ。証券口座を開くっていうことを知らない人が多い。だから、証券口座をまず開きましょうよっていうところから、実は話さなきゃいけないけれども。そこからハードルが高くて。
南 そうですね。なんで開かなきゃいけないの、めんどくさいなみたいな。
藤野 そう。かつ、騙されるんじゃないかとかいうのがある。だいたい証券会社っていうのは、テレビドラマとかを観ていると、怪しげな目つきで人を騙したりするっていうように描かれる。いい証券マンが出てくるテレビドラマってあまりないんですよ。まんまと主人公に対して災いを催してくる、犯人だったとしても主犯格ではない脇役キャラみたいな感じで出てくることが多い。
南 たしかにヒーローとしての証券マンってあまりいないですね、ドラマでも映画でも。
藤野 いない。だから証券口座を開くっていうことから、非常にこわい世界に足を踏み入れてしまうみたいな誤った感覚がある。そういう偏見をとらなきゃいけない。根本的に、貯金する人が正しくて信頼できる人で、結婚するに相応しい人で。逆に投資をする人は、女子目線からしても、配偶者に選ぶべき人ではないみたいな。浪費家イコール株式投資というイメージがあるから。
南 競馬とかギャンプル、パチンコと同じみたいに思っちゃってる人もいますよ。
1966年富山県生まれ。投資家、ファンドマネージャー。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長・最高投資責任者(CIO)。早稲田大学法学部卒。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス株式会社を創業。株式投資信託「ひふみ」シリーズの最高投資責任者。一般社団法人投資信託協会理事。投資教育にも注力しており、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授も務める。主な著書に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『ゲコノミクス』(日本経済新聞出版)などがある。