「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。

一流大卒でも「なぜか電話が取れない人」の微妙なメンタルPhoto: Adobe Stock

超優秀でも「電話」に苦労する

 私がアメリカのある州政府で働いていたとき、夏期にはインターン生たちがオフィスにやってきた。ほとんどの学生は家柄がよく高学歴で、とくに国際貿易、国際関係、外交政策の分野に強い関心をもっていた。

 そのなかでひとり、強く印象に残った学生がいた。中国系アメリカ人のもの静かな女子学生だ。

 西海岸の有名大学の学生で、非常に優秀かつ頭脳明晰。彼女の企画提案書は、つねによくまとまっていて明解だった。

 そんな彼女のことで、ひとつだけ気になったのは、電話が苦手なことだった。自分から電話をかけるのも、電話に出るのも、留守電にメッセージを残すのも、とにかく苦手なのだ。

 なんであれ、電話をかける必要が生じたとたん、不安になってしまう。電話が鳴っただけで、身体がビクッと縮み上がる。電話が鳴り続けているだけで、呼吸が荒くなってしまうこともあった。

 いま考えてみれば、私自身、彼女と似たようなものだったと思う。内向型の人ならこの気持ちがわかるだろう。

「とっさの対応」がストレスになる

 大学生のころ、同級生たちは夏休みにテレマーケティングのアルバイトをしていた。

 電話応対の仕事が大好きな子たちがいて、エアコンの効いた涼しい部屋で、ただ電話でしゃべっているだけで、時間が過ぎて、お金がもらえるなんて最高というわけだ。

 みんながそういう仕事を楽々とこなしているのを見て、私は驚いてしまった。

 というのも、テレマーケティングの仕事なんて、私にとっては罰ゲームみたいなものだからだ。

 いったいどれだけ経験したら、1日8時間も見知らぬ人たちを相手に、天気や映画の話を織り交ぜながら商品に興味をもたせたり、「当社のサービスをぜひ体験してみませんか?」なんて勧誘したりできるようになるのだろう?

 内向型が電話に出るのが苦手なのは、電話はいきなり鳴り出すし、相手がどこの誰かもわからないからだ。相手がいったいどんな話を始めるか、わかったものではない。

 電話中は、相手の話に耳を傾けながら、こちらはなんと答えるべきか、適切な判断を下せるように頭を働かせないといけない。

 しかも電話に出るには、そのとき考えていたことを中断したり、手を止めたりしなければならないのだ。

 電話に出なかったら、それはそれで後ろめたい気持ちになってしまう。

 さらに、内向型は電話をかけるのも苦手だ。そわそわして、落ち着かない気分になってしまう。

「こんな時間に電話したら、迷惑だろうか?」「もう3回も呼出音が鳴っているのに。もしかしたら、重要な企画を考えているのかもしれない。だとしたら、ほんとに申し訳ない」などと、気を揉んでしまう。

 複数名の電話会議もストレスになる。音声がよく聞きとれなくて誤解が生じたり、接続が途中で切れてしまったりするおそれがある。ともかく内向型にとって、電話は鬼門なのだ。

 電話で話す恐怖を克服するために、ぜひつぎの方法を試してほしい。(中略)

「どのくらい時間があるか」を最初に伝える

 あまり時間がないときや、気をそがれる電話に時間を取られたくない場合は、電話に出たときに、まず相手にこう伝えること。

「5分くらいなら話せますけど、大丈夫でしょうか?」

「準備した内容」に沿って話す

 電話をかける前に相手にメールを送って、何を話し合いたいかを事前に伝えておこう。

 自分にとっても備忘録になるだけでなく、すぐに本論に入れるため、効果的かつ身のある話ができる。知らない相手に勧誘の電話をかける場合は、ふせんに会話の目的を書いて目につくところに貼っておけば、リマインダーとして役立つ。

「自分のペース」を意識する

 自分よりも地位の高い相手と重要な話し合いをする場合、内向型は緊張のあまり、身体がガチガチになってしまいがちだ。ときには、電話の相手がだんまりを決め込んだり、逆に、早口で一方的にまくしたてたりすることもあるだろう。

 どちらにせよ、内向型は困り果ててしまう──カードゲームでひどい手札ばかり配られたときや、よく考えもせずに切り札を出さなくてはならないときみたいに。

 そういうときはまず、何度か深呼吸をしよう。そして、しゃべりながら考えられるよう、会話のペースを落とそう。

「あらためて返事をする」と伝える

 相手の提案について即断ができない場合は、とりあえずつぎのように返事をしよう。

「少し検討させてください。夕方5時までにはお返事を差し上げたいと思いますが、もし無理な場合は、明日の正午までには必ずご連絡いたします。それでよろしいでしょうか?」

「メールやメッセージ」を併用する

 電話に出られなかったときや相手が出なかった場合は、メールやメッセージを送ろう。電話には出なくても、メールやメッセージにはすぐに返信してくれる人もいる。

(本原稿は、ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』からの抜粋です)

一流大卒でも「なぜか電話が取れない人」の微妙なメンタルジル・チャン(Jill Chang)
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行ったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。Photo by Wang Kai-Yun