目標設定では、3つのことを意識することを推奨しています。まずは、タイムや勝敗のように、わかりやすく確認できる「数値目標」。そして、その数値を実現するために必要な「パフォーマンス目標」。試合中のシーンを抜き出して、どのようなパフォーマンスを発揮すべきかを具体化してもらいます。最後は、「ストーリー目標」。目標達成のためにどのような行程をいくのか、目標を達成した際にはその後にどんな展望をもつのか、どんな物語が紡がれるとワクワクするのか――。そういったことをイメージしてもらいます。

 ここで大切なのは、本人が楽しみながら目標を設定し、それに向かっていくこと。会話を通して、言葉にしてもらったり、絵を描いてもらったり、体を動かしてもらったり、選手が自身にあった方法でアウトプットします。

「正解」は具体的なアドバイスにあらず
五輪を目指す射撃選手が開眼した理由

「柘植さん、私、ブライカーに変えるかどうか迷っているんです……」

 さて、なんのことでしょう。オリンピックを目指している射撃選手からの相談です。私は射撃をしたことがありませんし、ブライカーたるものが何なのかさっぱりわかりませんでした。耳を傾けていると、「銃の種類でブライカー社製のものがあり、それに憧れている。しかし、扱いにくい一面もあるので導入すべきか」というのがその選手の悩みでした。

 そこで、スポーツメンタルコーチは何をするか。まずは、ブライカーに変えることのメリット・デメリットについて一緒に考えます。ブライカーを持って構えたときの感覚を想像して、また実際の姿勢をとってみて……。時間をかけて具体的なイメージから検証を行います。「数値目標」「パフォーマンス目標」「ストーリー目標」を考えながら検証してもよいでしょう。

 すると、選手はブライカーを選択することに前向きな判断をしました。「ブライカーを持つイメージができました。むしろ変えない理由はありません」と。