JA全農は役員のインサイダー取引が発覚しても
「身内びいき」で氏名の公表を控えた

 証券取引等監視委員会は今年6月3日、インサイダー取引の事実を確認し、167万円の課徴金を納付させるよう金融庁に勧告したが、課徴金納付命令の対象者については「A法人の役員」として匿名で公表していた。

 JA全農は同日、「元役員」がインサイダー取引を行ったと発表したが、元役員が中出氏であるとの公表を控えていた。

 中出氏が会長を務めるJAならけんは奈良県全域を管内とする大型農協である。組合員数は10万2957人で、貯金残高は1兆4426億円に上る。中出氏はインサイダー取引に手を染めた当時、JA全農役員の他、農協系出版社、家の光協会の会長を兼任するなどJAグループ最高幹部の地位にあった。

 インサイダー取引を行ったのが中出氏だということを公表しなかったJA全農の“身内びいき”の情報公開姿勢が、今後問われることになりそうだ。

 中出氏はインサイダー事件が発覚する前の4月にJA全農役員を「一身上の都合」で辞任、6月に家の光会長を退任した。それでも、JAならけんの会長ポストには就いたままだ。

 元農協職員だった中出氏は、09年にJAならけんの理事長に就任。それ以降12年以上にわたり事実上のトップを務め、農協内部では「独裁的なマネジメント」が問題になっていた。あるJAならけん関係者は「中出氏は農協内でJA全農役員を辞めたことで責任を取ったということで、農協の会長には居座り続けようとしているようだ」という。

 ダイヤモンド編集部は中出氏にインサイダー取引の事実等の確認を試みたが、記事執筆時点(6月8日未明)ではコメントを得られていない。

JAならけんでは職員の自爆営業や
保険の不適切販売、パワハラも発覚

 中出氏をトップするJAならけん内部の“モラル崩壊”は当人のみにとどまらず、末端の職員にまで及んでいるようだ。

 ダイヤモンド編集部は、農協による共済(保険)の自爆営業(職員が営業ノルマを達成するために本来、必要のない保険に加入したり、商品を購入したりすること)の実態を調べるため、全国の農協職員らにアンケートを実施。877人から回答を得た。

 全国551農協の中で、「共済の自爆が『ある』、または『あった』」という回答が最も多く寄せられたのがJAならけんだった。自爆報告数は実に50件に上り、共済の不適切販売が横行している実態も職員らへの取材で明らかになった(詳細は特集『JA自爆営業の闇 第2のかんぽ不正』の#3『JA共済「自爆営業」報告数1位JAならけんの「保険金詐欺」「不適切販売」の呆れた実態』参照)。

 アンケートに回答したJAならけんの職員は、「ノルマが未達になりそうだと支店長や副支店長に呼び出され、一対一の状態で机を蹴られ、目標必達を求められる」とパワハラまがいの自爆強要が行われていることを暴露した(詳細は同特集#4『JA共済で自爆営業強要、不正もみ消し…パワハラ横行で若手が逃げ出す絶望職場【告発動画】』参照)。

 JAならけんが信頼を回復するには、幹部人事を刷新するだけでなく、組織風土や事業推進の在り方を根本から見直すしかない。膿を出し切るには相当な覚悟と時間が必要になりそうだ。