日中関係の悪化で懸念される
エコノミック・ステイトクラフト

 以上のように、昨今の国際政治の流れを捉えてくると、筆者は一つの経済リスクを不安視する。それは、日中関係の冷え込みと経済への影響だ。

 当然ながら、自由民主主義国家としての日本の理念、そして厳しくなる日本の安全保障環境を考慮すれば、岸田政権の外交安全保障政策は極めて合理的だと筆者は考える。

 しかし、これを経済や貿易という視点を重視して考えると、最大の貿易相手国中国との関係が懸念される。今日、対ロシアで中国はプーチン政権を非難せず、欧米とは一線を画している。むしろ、欧米主導の対露制裁が強化されるなか、原油など中国ロシア間の経済貿易は結び付きが強くなっている。こういった事情を考慮すれば、大国間関係の行方において、「欧米日本vs中露」のような構図が今後徐々に顕著になってくる可能性は、決して排除できない。

 米中対立が激しくなる中、中国も欧州や日本を含め諸外国との関係悪化はなるべく避けたいのが本音で、日中間でも関係悪化にならないようさまざまな政策が議論されていることだろう。それが外交、政策というものだ。

 だが、現在の米中対立、ウクライナ情勢によって変化する大国間関係というものは、突然に偶発的衝突などが発生し、それによって経済的に大きな影響が出るというリスクを内在している。

 台湾有事が発生する可能性について、近年内外で頻繁に議論され、専門家からさまざまな見解が示されているが、これについて一つ言えるのは、発生しない保証など一切ないということだ。仮にそれが現実に発生すれば、シーレーンの安全、台湾にいる駐在員退避など経済的な影響は計り知れない。