企業の地政学リスクコンサルティングに従事する筆者の周辺でも、海外展開の多くを中国に依存する企業を中心に、「今後の日中関係の行方を不安視している」とする声は以前より多く聞かれる。

 たとえば、政治的目的を達成するため、軍事的手段ではなく経済的手段によって他国を攻撃する「エコノミック・ステイトクラフト」への懸念が聞かれる。

 近年でも、中国は関係の悪化する台湾に対して台湾産バイナップルの輸入を停止したり、オーストラリア産のワインや牛肉の輸入停止に踏み切ったりしたが、いつか日中関係が悪化した際、中国から日本へエコノミック・ステイトクラフトが実行され、それによって自らの企業の経済活動に影響が出る懸念が聞かれる。

 また、昨年6月、中国全国人民代表大会の常務委員会で可決された反外国制裁法への懸念も聞かれる。反外国制裁法は、中国が諸外国から不当な制裁や内政干渉を受けた場合、対抗措置として中国国内にある資産凍結、中国企業との取引中止、関係者たちの入国禁止や国外追放などができると規定するだけでなく、それに第三国も足並みをそろえた場合、中国はその第三国にも報復できるとしている。

 日本企業が懸念しているのは、まさにその第三国の対象に日本がならないかという点で、また、それを決めるのは結局中国側の判断によることから、常に日中関係の動向を注視しているとの声が聞かれる。

 過去に、日中関係が突然悪化した時、中国からレアアースの輸出が規制され、中国に展開する日本企業が破壊や略奪などの被害に遭ったことをわれわれは忘れるべきではない。今日の大国間関係の行方は不透明性に覆われており、それが日中関係にどう影響を与えていくかをわれわれは見ていく必要があろう。

(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)