「努力依存の日本」vs「システム対応のアメリカ」
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
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河田:アメリカンスポーツ文化が強く出ていて、「全く違うスポーツ」ですね。
まず、日本にいると、一つのことをやりきることが美学になっているので、アメフト部の人はアメフトだけやっていればいいという風潮があります。
一方アメリカでは、オンシーズンとオフシーズンがあります。
学生の本分は勉強とされ、オフシーズンは生徒とアメフトについて話すことさえ許されません。
オンシーズンでさえ、練習時間にリミットがあり、最大20時間しかチームで活動してはいけません。
試合時間やミーティング時間もその20時間に含まれます。
アメフトは半分がミーティングに充てられるスポーツですので、1週間のうち、2時間以上練習できる日程を概算してみると、「たった1日」しかありません。
一方日本では、毎日、朝から晩まで練習しています。
私が現役時も、週6日、月曜の休みを除いて毎日練習でした。
これはスポーツ以外のことにもいえますが、「人の努力に頼る日本」と、「システム、仕組みで対応するアメリカ」の違いを感じます。
アメリカは、システム(仕組み)がとてもよくできています。
その結果、2008年の北京オリンピックでは(OB・OGも含めて)、スタンフォードのキャンパスから出たメダルが25個にも及びました。
一方、日本のメダル数も25個です。
星:スタンフォードだけで日本全国民の記録と同じということですね。
河田:はい。そしてオリンピックの結果だけではなく、オリンピックで活躍したスタンフォードの元アスリートたちがその後、社会的インパクトを起こしてスポーツ経済に還元してくるんです。
アメリカではそんな素晴らしい循環システムができあがっているのです。
対する日本は「その時だけ」です。
テレビを見ても、東京オリンピックで活躍した選手はほとんど出ていないですね。
星:なるほど。より長い時間、たくさん練習できる日本と、コンプライアンスやルールがあり、少ししか練習できないアメリカ。
比べたときに、日本のほうが強くなりそうなのに、メダル数ではスタンフォード出身者だけで日本全体と同数を獲得。なぜ、そうなるのでしょう?
河田:まず、いろいろなことを効率よく研究したほうが、アマチュアスポーツにおいては結果につながる思います。
効率よく、いろいろなことやっていたほうが、体も大きくなり、スピードも速くなる。
もう一つは、日本人が「練習はウソをつかないというウソ」にダマされているということです。
星:たしかに。精神論みたいなものがありますね。練習すれば必ず報われるというような。
河田:そうなんです。根性、先輩、指導者が大事。指導者が言っていることがすべて。それが結果への最短ルートを妨げています。
だから、社会への影響力という点でも、日本のスポーツとアスリートは「感動」しか与えられない。
もっというと、日本人は感動以外のことを、スポーツとスポーツ選手が与えてくれることすら知らない。
日本にも、活躍しているアスリートを見て、「こんなふうになりたい」と思う子どもたちはたくさんいますし、選手の発言がよい影響力を持つこともあります。
でも、それ以上のことが、アメリカでは存在します。
星:日本では、たとえそのスポーツで一瞬輝くときがあっても、スポーツしかやっていいために、引退後の人生がなかなかうまくいかないですよね。
一方、スタンフォードのアスリートたちを見ていると、しっかり勉強するルールがあるので、スポーツを人生の「すべて」ではなく「一部」として、自らの人生をよくするためにやっている意識が強い。トップ選手でもそういう精神が強くあると思います。
金メダルを獲ってから、起業する選手もいると聞きます。