今や米スタートアップにとって国際展開は必須条件。では、どの国に進出したがるのか? ある大手グローバルVCによれば、「二択」だと言う。いったいどこなのか。そして、日本に進出市場としての魅力はあるのか?
数々のユニコーンに投資しシリコンバレーで躍進する日系VC創業者が、「急成長企業を見いだす科学的手法」をまとめた新刊書籍『スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか』より、その一部をご紹介していく。

 近年の米スタートアップ企業にとって、国際展開は上場する以前からほとんど必須となっています。ソフトウエア・サービスは勝者総取りの様相を強め、企業は起業後早い段階で世界の市場を押さえたいと考え、投資家もそれを求めているからです。

米国で成功したスタートアップが最初に進出したい海外市場は「二択」。中国、ブラジル、欧州…それとも日本?成功する米スタートアップが進出したがる海外市場とは?(Photo: Adobe Stock)

 2012年のフェイスブックIPO前後の時期から、国際展開に成功しているスタートアップが少ないことが(米国随一のベンチャー・キャピタリスト育成機関である)カウフマン・フェローズやそのOB/OGの間で問題意識として浮上していました。これに乗じて、(自身が2009年に米国で創業したVC)Sozoベンチャーズは国際展開のサポートを売り物にしたVCになろうと考えたのです。

 Sozoベンチャーズの創業直前、有力とされるVCほとんどにインタビューし、国際展開先としてどんなエリアにニーズがあるかを聞いて回りました。人口が多く経済成長をする中国やブラジルと言われるのだろうと予想していたのですが、意外なことに「日本」と答えるVCが多かったのです。

「日本の位置づけは、中国やブラジルとは違う」

 面白い分析をしてくれたのが、ベンチマーク・キャピタルのマネジメントでした。

米国で成功したスタートアップが最初に進出したい海外市場は「二択」。中国、ブラジル、欧州…それとも日本?中村幸一郎(なかむら・こういちろう)
Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター
大学在学中、日本のヤフー創業に孫泰蔵氏とともに関わる。新卒で入社した三菱商事では通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーション・ファンドの事業などを担当した。米国のベンチャー・キャピタリスト育成機関であるカウフマン・フェローズ・プログラムを2009年に首席で修了(ジェフティモンズ賞受賞)。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャー・キャピタリストのグローバル・ランキングであるマイダス・リスト100の2021年版に日本人として初めてランクインし(72位)、2022年はさらに順位を上げた。シカゴ大学起業家教育センター(Polsky Center for Entrepreneurship and Innovation)のアドバイザー(Council Member)。早稲田大学法学部卒、シカゴ大学MBA修了。著書『スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか』を2022年6月上梓した。

 彼は「米国で成功したモデルが最初にグローバル展開をする先は、日本か欧州の二択」と話しました。

 それはなぜか。

 知的財産権が守られ、社会秩序が保たれて可処分所得が高い。そうしたプロト市場としての要件を満たしているのが欧州と日本という2つのエリアであり、中国とブラジルとはその点で状況が違う、という見解でした。また、日本でスケールすることを求めてはいない、とのことでした。

 欧州に進出する際に人気が高いのは、英国でした。英国は欧州の代表的な市場と見なされているからです。しかしスタートアップは、英国であれば言葉の壁もなく自分たちで進出できると考えます。また、英国に進出したからといって、フランスやドイツのマーケットが取りやすくなるかというと、必ずしもそうではありません。欧州のマーケットは案外、分断されているのです。

 一方で日本は、米国のスタートアップが単独で進出するには、言葉や文化の問題もありハードルが高いと思われていました。日本はアジア有数の先進国であり、日本に進出することはほかのアジア諸国へ進出するモデルケースになるメリットがあります。実際にスクウェアやコインベースは、英国よりも日本進出を優先しました。

 Sozoベンチャーズ創業前、私はまだ三菱商事社員の立場でツイッターの日本進出を手伝い、それが縁でパランティアを紹介され、両社への投資の機会を得ました。こうしてSozoベンチャーズは、日本進出のサポートを付加価値として提供するVCとして出発することになりました。ファンドありきではなく、グローバル展開のサポートが先にあり、その器としてファンドを設立したという順だったのです。