急成長するスタートアップのCEO(最高経営責任者)は魅力的な人物が多い。だが、そのCEOと同じぐらいチームメンバーの構成は重要だ。いったいどんなメンバーを集めるべきなのか?
本記事は、数々のユニコーンに投資しシリコンバレーで躍進する日系VC創業者が、米国随一のベンチャー・キャピタリスト育成機関カウフマン・フェローズ・プログラムで学んだほか、実践を通して学んできた「急成長企業を見いだす科学的手法」をまとめた新刊書籍『スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか』より、一部をご紹介していく。

急成長スタートアップに欠かせないチームメンバーの条件とは?理想的なチームとは?(Photo: Adobe Stock)

 スタートアップというと、若いCEO(最高経営責任者)にスポットライトが当たりがちです。しかし、有望な企業は、よく見るとチーム全体としてうまく機能するよう、適切な人材が配置されています。有能なCEOはお金を集めるよりも先に、チームを集めることができます。CEOよりも、それぞれの担当分野で強力にビジネスを推進できるメンバーがそろったチームが大切なのです。

急成長スタートアップに欠かせないチームメンバーの条件とは?中村幸一郎(なかむら・こういちろう)
Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター
大学在学中、日本のヤフー創業に孫泰蔵氏とともに関わる。新卒で入社した三菱商事では通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーション・ファンドの事業などを担当した。米国のベンチャー・キャピタリスト育成機関であるカウフマン・フェローズ・プログラムを2009年に首席で修了(ジェフティモンズ賞受賞)。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャー・キャピタリストのグローバル・ランキングであるマイダス・リスト100の2021年版に日本人として初めてランクインし(72位)、2022年はさらに順位を上げた。シカゴ大学起業家教育センター(Polsky Center for Entrepreneurship and Innovation)のアドバイザー(Council Member)。早稲田大学法学部卒、シカゴ大学MBA修了。著書『スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか』を2022年6月上梓した。

 やや極端ですが、CEOも機能の1つであり、創業者がCEOに向いていないなら、ベンチャー・キャピタル(V)が代わりのCEOを探してくることもあります。サービスナウ(ServiceNow)はこの例に当てはまり、2003年に同社を創業したエンジニア、フレッド・ルディはIPO前年の2011年「自分はCEOとしての能力を持ち合わせていない」としてCEOを退き、最高プロダクト責任者(CPO)に就きました。

 スタートアップ企業が「やらなければならないこと」は業界ごとにだいたい決まっています。サッカーチームのように、与えられたポジションでプレーできる選手がそろっている、またはそろえる合理的な計画があることが必要です。


 また、やらなければならないことは、成長フェーズごとに変わってきます。製品開発直後には、本格販売前のプロトタイプの製品を作る人材、プロトタイプの市場にアクセスできる人材、プロトタイプのユーザーをサポートする人材が必要です。さらにビジネスを拡大していく局面で、大口の顧客を取ってくるようなセールスマンや、代理店を管理する人材も揃えることになります。売上が増加していくにしたがって、人員や設備といったリソースを適切に増強、配置する人材も必要でしょう。

 これはラウンド(資金調達)ともリンクします。シードラウンドやシリーズAの資金調達では、プロトタイプの商品を完成させ、初期の市場を開拓していくのが得意なマネジメントを入れ、その下にチームを作るだけの資金調達が必要です。さらに次のラウンドには、ビジネスを一気に拡大する能力のある人材をそろえることが合理的といえます。

マネジメントチームの業界経験は十分か

 適切な人材がそろっているか判断するときに重要になるのが、それぞれのメンバーの過去の経験値です。その企業がリーチしようとするマーケットにおける豊富な業界経験がある人材がそろっているかどうかで、ビジネスの成否は決まります。

 たとえば、ヘルスケアのスタートアップのマネジメントチームに、大手電機メーカーの元CEOが参画していたとしても、あまり評価されることはありません。今日の世の中では、経営のフレームワークや技術の一般的なイノベーションのような、業界の垣根を超えた普遍的スキルはすぐに陳腐化します。日本で散見される「プロ経営者」がファーストフード業界からIT業界に行くようなケースは、特にスタートアップ業界ではうまくいかないと考えたほうがいいでしょう。

 陳腐化しにくい付加価値は、業界の細かい専門知識や複雑な交渉、売り込みにおける勘所、人的なネットワークなど、経験でしか手に入らないポイントなのです。もちろん、業界が違っても有能な人であれば徐々に商習慣に慣れていくかもしれません。しかし、恐らく失敗を繰り返しながら時間をかけて慣れるプロセスを踏まなければならないでしょう。スタートアップには、そうした時間的金銭的な余裕はありません。

 老舗VCであるアンドリーセン・ホロウィッツのマネージングパートナー、スコット・クポールは著書で端的な表現をしています。

 ラーメンだけ食べて床の上で寝ろとは言わないが、限られたリソースしかないほうが、会社にとって重要なマイルストーンに磨きをかけるために役立つし、どの投資も最終的な機会費用と確実に比較検討するようになる。

 別の言い方をすると、スタートアップはダイビングをしているようなもので、残り少ない酸素を気にしながら、本当に見たい魚に的を絞って泳ぐようなものです。魚を見たら、もう少し大きなボンベに酸素を詰めて、ウミガメを見に行く、さらに酸素を詰めてイルカを見に行く。マイルストーンごとに、ぎりぎりの酸素状態で泳いでいます。適切な経歴を持つ人材を、ピンポイントで加入させる余裕しかないのです。

必然的にチームは若くなくなる

 日本では「スタートアップ企業=若い」というイメージがあります。しかし、米国でスタートアップのマネジメントチームと接すると、CEOは比較的若くても、脇を固めるマネジメントチームは50歳を超えたメンバーが少なからず混じっています。それぞれの機能としてそれなりの経験がないと、ビジネスを遂行することは不可能だからです。

 たとえばパランティア・テクノロジーズは、米陸軍や空軍を顧客に抱えています。2008年からパランティアのグローバル防衛部門の責任者を務めるダグ・フィリッポーネは元陸軍士官です。アフガニスタン、イラク、パキスタンにおける対テロ戦争で、集まった情報や証拠を活用してミッションを計画・指揮した実戦経験を持ち、軍部のニーズに精通しています。このほかセールスには、政府のサイバーセキュリティを担当していた人物もいます。一方でファイナンスを担うのは、米国のトップVCの1つであるファウンダーズ・ファンドでファイナンス経験のある人物です。このように各専門分野で百戦錬磨の人材が、急成長するスタートアップには欠かせないのです。