慶應義塾高校野球部・森林貴彦監督が語る、AI社会で勝ち残る球児の育て方

 たとえば、細かな報告を求める人が上長だったら、不必要だからという理由で通すのではなく、これまで報告をしてこなかった自分を見つめ、そこから得られそうなメリットを探るのです。結局、慣れてしまえばそう難しいことでないことが多いですから。自分の考え方をアップデートするチャンスと捉え、「ここで変われると、自分もまた成長するかなぁ」と、プラス思考にもっていけると良いですね。

 難しい相手の難しいピッチャーとの対峙は、学生時代に多く経験してきたかと思います。「このピッチャーとは相性が悪い」「自分だけ損している」と言っていても仕方ないですよね。狙い球を変えたり、バッティングフォームを変えたり、待つタイミングを変えたり、打席での立ち位置を変えたり、より多くの選択肢を整理して、実行しているんですよね。

慶應義塾高校野球部・森林貴彦監督が語る、AI社会で勝ち残る球児の育て方

 ピッチャーは攻略するものですが、上長はうまくやっていくもの。そのために自分の考え方をアップデートして、実行することが沢山あるんですよね。でも、それをしないまま相手にばかり求めるのはおかしいと思います。今の時代はそういった文句を言いやすい雰囲気がありますが、そこに簡単に逃げるのではなく、まずは自分を変えるということを実行してもらいたいですね。

 それが大前提じゃないと、人生は楽しくない。どんな状況であっても楽しむために工夫したり、成長するために価値観をアップデートさせたり。失敗の多い野球を経験してきたんですから、プラス思考でぜひ対応してもらいたいですね。

AI時代だからこそ問われる
高校野球の価値・スポーツの価値

 野球部だけじゃないですが、学生時代には多くの失敗を経験できると思います。皆の前で失敗して恥ずかしい思いをする。そこからは必ず立ち直れるので、そういった立ち上がる練習の場にもなるんですよね。勉強を頑張って成績優秀のまま卒業していくことも大事ですが、こういった側面も忘れてはいけません。

慶應義塾高校野球部・森林貴彦監督が語る、AI社会で勝ち残る球児の育て方

 もう多方面で言われてはいますが、AI時代において人間ができる仕事って変化しますよね。誰にでもできることは、代替していく時代になるでしょう。「では、あなたの価値は?」と問われたときに、人と人との繋ぎ込みや、課題を発見してアイデアを提案して実行していくことが大事になります。また、それが失敗に終わっても、何度も挑戦していけるマインドも必要となります。

 こういった非認知能力こそが人間の価値になってくるので、学生時代に野球を通して、その下地づくりができればと思います。学生もそういったことを自覚して活動できれば、社会人になってから優位性を持てるのではないでしょうか。

森林貴彦(もりばやし・たかひこ)/慶應義塾高校野球部監督。慶應義塾幼稚舎教諭。1973年生まれ。慶應義塾大学卒。大学では慶應義塾高校の大学生コーチを務める。卒業後、NTT勤務を経て、指導者を志し筑波大学大学院にてコーチングを学ぶ。慶應義塾幼稚舎教員をしながら、慶應義塾高校コーチ、助監督を経て、2015年8月から同校監督に就任。2018年春、9年ぶりにセンバツ出場、同年夏10年ぶりに甲子園(夏)出場を果たす。