日本企業や日本製品との深い関わり

5126回もの失敗を受け入れるダイソンの姿勢に、デザインドリブンの経営とは何かを学ぶ――『インベンション 僕は未来を創意する』『インベンション 僕は未来を創意する』
ジェームズ・ダイソン[著]
川上純子[訳]
日本経済新聞出版

 本書には、魅力的な製品がたくさん登場します。そこから得た感動やインスピレーション、ワクワク感もストレートに伝わってきます。

 中でも、ジェームズが熱く語る最初の製品は、ホンダ(本田技研工業)のスーパーカブです。それが優れたバイクであることはもちろん、その生みの親であり、ホンダの創業者である本田宗一郎が「取り憑かれたかのように製品の改良を続けた」姿勢も絶賛しています。

 日本って、デザイン経営の後進国かも……。そう感じていた私にとって、日本人エンジニアが若きジェームズに大きな影響を与えたというエピソードは、なんだか誇らしいものでした。

 ダイソンと日本との関わりはそれだけではありません。本書には、模範とする人物としてソニー創業者の盛田昭夫の名前も挙げられていますし、初期の重要なビジネスパートナーも日本企業でした。英国の手帳ブランド「ファイロファックス」を輸入していたエイペックスという日本の商社が、借金や訴訟を抱えて苦戦していたジェームズに声を掛け、いち早くライセンス契約を結んだのです。ジェームズが発明したサイクロン式掃除機は、1986年から「Gフォース」という商品名で、日本で製造・販売されています。

 その後も紆余曲折を経て(詳しくは、ぜひ本書を読んで体感してください)、93年、ジェームズは、いよいよ掃除機の自社製造を始めます。大ベストセラーとなったDC01「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」がついに発売されたのです。

 本書の帯には〝成功の陰に、5126回の失敗あり〟という惹句が添えられています。掃除機に搭載するサイクロン技術を完成させるまでには、気が遠くなるほどの失敗があったのです。しかし実際に読んでみると、失敗のつらさより、「良いプロダクト作り」に燃えるエンジニアのワクワク感だけが印象に残ります。一方、モノづくりに直接関係のない特許取得や訴訟にまつわる苦労は本当につらそうで、ぐったりした表情まで読み手の私に伝わってくるほどでした。