2023年に予定されていた慶應義塾大学と東京歯科大学の法人合併が、昨年11月コロナ禍の影響を名目に期限を定めず延期すると発表された。慶應にとっては、現存の医学部、薬学部、看護医療学部に歯学部を加えることにより、理系分野を強化し、国際競争力を高める狙いがあるとみられていた。特集『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23回)の#5では、合併の発表からわずか1年で振り出しに戻った急転直下の展開の深層を探る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
慶應「歯学部」は幻に終わる?
東京歯科大との合併は振り出しに
8月9日、東京医科歯科大学と東京工業大学が統合に向けた協議を始めると発表した。早ければ2024年春の統合を目指すという。
一方、私立の有名大学同士でも大きな話題を呼んだ統合話があったことを覚えているだろうか。予定では、東京医科歯科大と東工大の統合より1年早い23年春には慶應義塾大学が東京歯科大学歯学部を統合し、「慶應歯学部」が誕生するはずだった。
慶應と東京歯科の法人合併が正式発表されたのは、20年11月。両大学は、それぞれの医学部と歯学部間で密接に連携してきた歴史があり、「常に合併のうわさはあった」(東京歯科大出身のF歯科医師)。
慶應は、国内、特に経済界では大きなブランド力を持つ私学の雄だが、大学の各種国際ランキングでは、存在感を示せていなかった。そこで既存の「医(医学部)」「薬(薬学部)」「看(看護医療学部)」に、歯学部を加えることで国際競争力を高めるための合併だとみられていた。
しかし、それからわずか1年後の21年11月、今度は突如新型コロナウイルスの感染拡大を理由に23年春の合併は見送る(東京歯科大学の歯学部の慶應義塾大学への統合および法人の合併についての協議の状況に関するお知らせ)と発表された。
コロナ禍の影響で、東京歯科の20、21年度の事業活動収支差額比率はそれぞれ2.6、0.4%と確かに低下はしているが黒字をキープしており、コロナ禍前の19年度は3.4%。合併を見直すほど経営状況が悪化しているわけではない。
両大学共に「リリースに書かれていることが全て」とのことだが、合併の正式発表からわずか1年の間に何が起こったのか。今年7月に報道されたとある医療ベンチャーの株式売買を巡るニュースに、その深層は隠されていた。