アフターコロナの医学部・最新序列#1Photo:PIXTA

1980年代から現在までで、医学部の偏差値は急上昇した。一番低い大学の偏差値40台が、60前後まで上昇したのだ。だが、過熱する医学部人気は、本当に医療界のためになっているのか。特集『アフターコロナの医学部・最新序列』(全10回)の#1では、高久玲音・一橋大学国際・公共政策大学院准教授が医学部受験の問題点を紐解きながら、医師の構造問題を解き明かす。(聞き手/ダイヤモンド編集部 野村聖子)

「週刊ダイヤモンド」2020年6月27日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

70年代には私大新入生65%が裏口入学の過去も!
若者だけに医師偏在対策の負担を押し付けるな

――5月に出された論文に掲載された、40年間の医学部の偏差値の推移は衝撃的でした。以前から業界関係者たちの間では認識されていたこととはいえ、改めて数値で見ると、医学部受験の過熱度がいかほどだったのか、一目瞭然です。

高久玲音たかく・れお/1984年神奈川県生まれ。2007年慶應義塾大学商学部卒業。同大学にて博士号取得。日本経済研究センター研究員、医療経済研究機構主任研究員を経て、19年より現職。

 河合塾がデータを持っているとのことだったので、なるべく古い時期までさかのぼってくださいとお願いしました。1980年時点で一番低い大学の偏差値が40台だったのが、60前後まで上昇しましたからね。

――医師の間でも話題になっていました。特に私立大学出身者は勇気づけられるデータだったようで(笑)。国公立大学出身者から見下されることも少なくなったようです。

 個人的にも週刊誌が取り上げているようなキャッチーなネタは大好きです(笑)。

 自分自身楽しみながら書いた論文なので、そう言ってもらえるのはうれしいです。

――論文では、長年暗黙の了解だった、私大医学部の「裏口入学」についても触れていますね。70年代には私大の新入生の約65%が裏口入学だったと。

 論文を書くに当たり、裏口入学についてはしっかりと調べたんですよ(笑)。元の文献には当たれなかったのですが、宇沢弘文先生という高名な経済学者の文献を引用しました(※宇沢弘文『近代経済学の再検討―批判的展望』1977年、岩波新書184ページ)。当時の文部省の調査結果だったようで、全国の16の私大医学部に対する調査となっています。

 ちなみに同文献によると、裏口入学金の平均は600万円となっていますが、当時のCPI(消費者物価指数)は現在を100とすると30程度ですので、現在の価格に換算すると2000万円にも上ります。

――この論文の趣旨は、医学部の高偏差値化と医師のキャリア選択との関連性にありますね。医師のキャリア選択は、「地方や診療科による医師の偏在」という、現在わが国が抱える重要な医療政策の課題に直結します。

 日本における近年の医学部のような、過酷な受験戦争を勝ち抜けるだけの知能と競争心にあふれた人に、医師という仕事が果たしてふさわしいキャリアなのかということは、常々考えていました。

 近年、ワークライフバランスの観点から比較的楽な診療科を選ぶ若い医師が増えているといいますが、他にも彼らの高い知能と競争心が必要な産業は多く、そのような分野で活躍してくれた方が絶対いいんじゃないかと。