プレイステーションの父と呼ばれる久夛良木健氏は、世界のギークからビジョナリー(未来を予見できる人)と呼ばれ続けている。そんな久夛良木氏が今年、近畿大学情報学部長に就任。若い世代にイノベーションの最先端を手ほどきする特別講義が、ビジネスパーソンにも非常に役に立つ内容だ。今回の「久夛良木ゼミ」の実況中継は、新しい技術と倫理をめぐる深遠な問題がテーマだ。新しい技術の登場によって生まれる、「今まで想像もしなかったような難しい問題」に人間はどう立ち向かうべきか?
機械がドライバーになる自動運転
悲惨な死を減らせるかもしれないが…
今日は新しい技術と倫理について話します。
自動車は現代の生活に欠かせない道具です。しかしこの自動車による交通事故で、一体どれぐらいの人が命を落としているのか、ご存じでしょうか。
世界全体では年間で実に約130万人もの人が、交通事故で死亡しています。亡くなった人の家族を含めれば交通事故で苦しみ、悲しんでいる人は膨大な数に上ります。
国別に見ると、一番多いのは中米のコロンビア。以下にコスタリカ、ブラジル、メキシコと続きます。米国も非常に多い。日本は37位で、人口10万人当たり2.9人が交通事故で命を落としている計算になります。
なぜ、これだけ多くの人が命を失うのか。日本の交通事故の原因を分析すると、全体の93%がヒューマンエラーによるものと分かります。例えば安全確認不足。道路脇から何かが飛び出してくるのを確認するのが遅れたといったパターンで、これが一番多い。ほかに脇見運転も少なくありません。こういった人間の間違いによって引き起こされる事故というのが、圧倒的多数を占めているのです。
人間は完璧な生き物じゃない。しばしば間違い、事故を起こす。ならばこの不完全な人間に代わって、機械が運転する自動運転のシステムを導入すれば、交通事故による悲惨な死を減らせるのではないか。これが近年、自動運転の研究開発と実用化が進む大きなモチベーションになっています。
しかし、高度な自動運転が社会実装されても、人命をめぐる倫理的な問題はなくなりません。それを考えるために、有名な思考実験をしましょう。次のように想像してみてください。