『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』を推してくれたキーパーソンへのインタビューで、その裏側に迫る。
今回インタビューしたのは、発達障害当事者としてTwitterで子育てなどの情報発信を続けるなちゅ。さん。『独学大全』は何度も学ぶことに挫折してきた発達障害の人たちにおすすめしたい、最後の一冊」と語る理由を詳しく聞いた。(取材・構成/編集部)

子育てがきっかけで発達障害を「独学」する

――なちゅ。さんはTwitterで、次のようなつぶやきをされていました。フォロワーさんに『独学大全』をすすめていただき、ありがとうございます。なちゅ。さんご自身は、大人になってからどんなふうに勉強で試行錯誤されてきたのですか?

なちゅ。:私は今42歳で、中学校2年生(13歳)と小学校4年生(9歳)の娘がいます。そもそもですが、私が大人になって「勉強しよう」と思ったのは、子どもが発達障害と診断されたことがきっかけなんです。

 上の子が、1歳半検診で引っかかって、その後「自閉症スペクトラム」の診断が出た。初めての育児で突然のことに驚きつつも「自閉症スペクトラムって? 発達障害ってなんやねん?」と、いろいろ本を買ったことが、私の大人になってからの独学の出発点でした。

――ある意味「必要に迫られて」独学を始めたんですね。

なちゅ:そうなんです。『独学大全』の技法2の解説に、「必要になるまで学習しない遅延評価学習法」や「パラシュート学習法」が載っていますよね。私の勉強は、発達障害に限らず全てこのスタイル。必要にならないとやらない。大人になってからは特にそうです。学ぶ分野に偏りはあると思うけれど、自分には合っているなと感じます。

発達障害“ガチ勢”の私が、勉強に挫折し続けて「最後にたどり着いた一冊」『独学大全』の技法2「可能の階梯」解説部分

――子育てや、ご自身のご病気などをきっかけに独学を始める方は多いようですね。読書猿さんのブログでも、インテル創業者のアンディ・グローブが、自身が前立腺がんになってから独学を始めた経緯が書かれていました。

なちゅ。:確かに、私の周りでも同じような動機の人は多いかもしれません。私の場合は「子どもについて知りたい」から始まり、学びがだんだん深まるにつれ、「自分を知りたい」と思うようになりました。

「自分は発達障害(ADHD)かもしれない……」と思い始めたのは、独学で子どものことを色々調べていたから。「あれ、この特性自分にもあてはまるな」と感じることが多くて……。それで、病院に行って診断を受けてみたらわかったという感じですね。

 自分が発達障害の子の母親にならなかったら、その後の人生も「なんとなく生きづらい」まま、診断は受けずに過ごしていたのかもしれません。実際、私の母は私が診断を取っても「自分の子が発達障害」だとは全く信じていないですね。

――大人になってからは、具体的にどんな内容を学びましたか?

なちゅ。:「発達障害とは何か=わが子、自分はどういう人間か」を少しずつ調べ、分析してきた感じです。

発達障害“ガチ勢”の私が、勉強に挫折し続けて「最後にたどり着いた一冊」なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如・多動症)当事者。中学校2年生(13歳)と小学校4年生(9歳)の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。 長女の発達障害診断をきっかけに、独学を開始。現在も、自らの発達障害や子育てについてTwitterを中心に情報発信を行う。
Twitter:https://twitter.com/itacchiku note:https://note.com/itacchiku

 最初は育児本、発達障害の子ども向けのノウハウ本、入門書を読みあさりました。だんだんその背景が知りたくなって、専門書を読むようになりました。さらに最新の知見を知りたいときは、論文も読みました。最初は何が書いてあるのかさっぱりでしたけど。

 ネットがあればだいたいのことの「とっかかり」は調べられる。でも、本気で調べようとしたら、ネットだけで解決することはそんなにないんですよね。

 そうして深く学んでいくと、発達障害に対する考え方が変わってきました。たとえば幼児の頃に行われる発達障害のスクリーニング。1歳半検診で長女が引っかかったときは「あ~、うちの子は不合格だった」みたいに感じていた。

 でも、学びの対象として見るうちに、そういう考えは消えました。スクリーニングは子ども本人や保護者の育児に対する採点や試験などではなく、支援すべき問題の可能性をみつけるためのシステムだということを理解しましたし、わが子の健診の結果についても、合格/不合格ではなくて、対処すべき問題として客観的に認識できたんです。

Twitterで学ぶ仲間ができた

――なちゅ。さんは元々研究者肌というか、学ぶのが好きなタイプだったんですね。

なちゅ。:いえいえ! 全然そんなことないです。学生時代は空想癖があって、全く授業を聞いていないので勉強がわからなくなって……。自分では何がダメなのかわからないまま、成績はどんどん落ちていきました。受験も失敗しています。親からはいつも「もっとちゃんとしな!」と怒られていましたね。

「自分は勉強という行為が大嫌いで、できないタイプの人間だ」と、完全に苦手意識をこじらせた大人になりました。

 実は……学生時代は大嫌いで不得意だった勉強が、大人になって「楽しい」と思えるようになったのは、Twitterのおかげです。

 始めたのは、今から10年くらい前。子どもの発達障害について独学した内容や、自分が子どものころ人とどう違ったかなどをツイッターで言語化していったら、同じ悩みを持つ方々が「私もそうだった!」とか「うちの子の場合はこうだよ」と反応をくれて……そこから、さらに学びを深めていけました。

 仲間ができたのも大きいですね。初期のころからのフォロワーさんで、発達障害の当事者の方がいます。当時、リアルの世界で当事者同士やりとりする機会はなかったので、出会えたことはとても貴重でした。彼女は大人になってからも数学の微分積分とかを楽しそうに解いているんです! 学生時代は勉強が大嫌いだった私に「学ぶのは楽しいよ」と教えてくれた恩人です。

『独学大全』も、最初はその友人が紹介してくれました。

悩みには2段階ある

――発達障害の方に、『独学大全』をおすすめする理由を教えてください。

なちゅ。:一番いいなと思うポイントは、発達障害当事者が必ず通過する「挫折」を前提にしているところです。

――挫折、ですか。

なちゅ。:はい。学びでも日々の生活でも、発達障害に向き合うには、下記の2段階があると私は考えています。

 ①自己分析:自分を知り、困りごとに気づく
 ②対処:困りごとにハックで対処する

 私は独学で①をずっとやってきて、だいたい自分の困りごとはわかるし、それにどう対処すればいいかもわかっている……でも②ができない、を繰り返しています。うちの子も同じです。

 勉強とは違う例で説明するとわかりやすいかもしれません。たとえば私はよく、「この書類は明日出かけるときに忘れ物しちゃいけないから、ドアノブに掛けておこう」とか、「玄関の前に置いておこう」みたいな発達障害ライフハックを使うんです。

 でも残念ながら「だから忘れ物をしなくなった!」という単純な話では全くなくて……。ドアノブにかけても、玄関の前に置いても、それをまたいで、あるいは通り過ぎて出かけてしまう!

 当事者以外の方には「え??」と驚くことかもしれませんが、“ガチ勢”であれば、こういうことは日常茶飯事だと思います。

――『独学大全』は、②の段階に辿り着いて、それでもできない人におすすめだということですね。

なちゅ。:はい、“ガチ勢”と書いたのはそういう意味です。

 勉強本も、「自分はどこでつまずいているんだろう?」という①の段階の人は、発達障害ライフハックの入門書を買った方がいい。

 ①の段階の人には、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』のシリーズはおすすめですね。

『独学大全』の“ガチ”なポイント

なちゅ。:でも、「それ知ってるよ! でもできないんだよ!!」という人は、私が知る限り『独学大全』を買うしかないと思います(笑)。

――どういう点が他の本と違って“ガチ”だと感じますか?

なちゅ。:たとえば、「勉強を先送りしないためにはどうすればいい?」というよくある悩み。たいていの本に、「とにかく手をつけましょう」と書いてあります。『独学大全』だと技法5で紹介されている「2ミニッツスターター」が王道ですね。

発達障害“ガチ勢”の私が、勉強に挫折し続けて「最後にたどり着いた一冊」

 でも、私たち“ガチ勢”は「少しでも手をつければいいってわかってる!!でも、手をつけられないんだよ!!」という挫折を、もうあきれるくらい繰り返しています。単に技法をひとつ知っていても、ダメなんです。

『独学大全』には、「2ミニッツスターター」以外にも、ありとあらゆる技法が紹介されている。1回挫折しても、こっちを試してみよう、それもダメならこっち……と選択肢があるんです。おそらくですが、こんなに手札があるのは、読書猿さんご自身が挫折したり、失敗したりした経験があるからなのではないでしょうか。

 もうひとつスゴいのは、55全ての技法に「名前」をつけて、そのプロセスを「言語化」していること。

 技法の内容は、「もうやっているよ」という人も多いと思うんですが、これまで誰も言語化できていなかった。それを、『独学大全』が初めて整理してくれたんです。

 名付けられていれば、技法は試しやすくなります。さらに、やってみて失敗しても、それぞれのプロセスに至る理論の部分までていねいな解説があるので、「どこが悪かったのかな?」と検証して、またやり直すことができます。そこが単純にやり方だけを並べたハック本との大きな違いで、理論から触れられるからこそ、失敗し、挫折するたびに、勉強法を改善していけるんです。

 この強みは、勉強法に限らず、毎日の生活習慣や、ダイエットなどにも応用できると思います。

――「分厚くて挫折しそう」という人ができる工夫はありますか?

なちゅ。『独学大全』は分厚すぎて読める気がしないという人は、個人的にはオーディオブック版と紙の本との併用がおすすめです。

 ながら作業でオーディオブック版をふわっと聞いておいて(1回で理解できなくてOKです)、「そういえばこれあったな……」と記憶にひっかけておく。そして、勉強で困ったときに紙の本を辞書的に使う。

 一度流して聞いておくと、辞書として使うとき、だいぶラクになりますよ。