基礎を徹底して「できる」と思わせる
富永:難しい問題を無理にやらせるより最優先してやるべきことは、基礎の習得です。
たとえば算数なら、この本に一覧表を載せた「計算の64ステップ」で、その子がどのレベルにいるのか「現在地を見える化」する。そして、つまずいているところから反復練習して「できるようになった」という達成感を持たせる。そうすると「次の計算もやってみよう」とやる気になれますから。
親からすると、「まだ九九を覚えてないの?」などとまどろっこしく感じるかもしれませんが、そこが踏ん張りどころです。逆に九九ができたら「できるようになったね!」と褒めてあげて、モチベーションアップにつなげていけばいいんです。
――食事の前や入浴前などの隙間時間を使って、勉強時間を10分や15分ルールで小刻みにすると、子どももそれぐらいならできると思えるので習慣化しやすい、というアドバイスも参考になりました。
富永:子どもの学力レベルややる気を無視して、大量に何時間も勉強させて先へ先へと進ませようとするご家庭がとても多いんですね。それは本人にとってはまったくの逆効果で、勉強に対する苦手意識が強まるだけです。
これは声を大にして言いたいのですが、どんな子どもでも目標を小刻みにして、スモールステップで達成感を得ながら、段階的に学力を身につけていけば難関校でも合格できます。古い言い方をすれば「千理の道も一歩から」で、1つ1つは小さなステップでも、積み重ねていくと大きな力になるんですね。
模試の偏差値も、次のテストで算数はプラス3、国語はプラス2、社会は楽しんで解けばいいとか、目標も小さくゆるめに決めたほうが、「できるかも!?」と思えるものです。
――大人も同じですね(笑)。
富永:そうでしょう。ところが、子どものことになると親はすぐ焦ってしまいます。スモールステップを踏んでいるときは「待つ」ことが一番大事です。そして、できないことには口出しせず、できたことを褒めてあげること。
「うちの子は勉強ができないから褒めるところがない」という方もいますが、遊びたい盛りに塾に通っていることを褒めてあげてもいいんです。
毎日の積み重ねが、子どもの未来を切り開く
富永:逆に、「自分の子はまだ本気出していないだけで、本気出せば頭はいいはず」と過信している親もいます。これも塾の保護者会で何度も話してきたことですけど、親が来年自分の年収を10倍にしろと言われてもできないですよね。明日までにドイツ語の単語を300覚えなさいと言われても、覚えきれません。
それなのになぜか自分の子どもはできると信じて、模試の前日に一夜漬けで勉強させて起死回生を目指したり、一年で偏差値を20上げようとしたりする親がいます。
そんな魔法のような勉強法はありません。本当に優秀な子は勉強時間が少なくてよく遊んでいますし、睡眠時間もたっぷりとっています。
特に受験学年になって子どもが本気を出すときに必要な条件は気力と体力、睡眠時間、そしてルーティンの学習習慣でコツコツ積み上げてきた基礎学力です。それらがそろってはじめてやる気になれるのです。