「作品の質」を競うのではなく
「コンピレーションの妙」を意識する

「なぜ、みんな、何となくでもロゴを覚えているのか」というところからひもとき、「ロゴ」がブランドを想起させ、その雰囲気を伝えるためにいかに重要な役割を担っているか、良いロゴの条件はシンプルで覚えやすいことだが、同時にブランドとの関連性が伝わらなければならないので、シンプルながらも、ブランドとの関連のバランスが重要であることなどが、簡潔に、そして、プレゼンテーション資料と合わせて感覚的につかめるよう、説明される。

ジム氏Photo by Takumi Kitamura(IDEO Tokyo)

 また、ブランドには色が重要であることを示すため、いくつかの色の組み合わせを示して、温かいか冷たいか、健康的かなど、色の組み合わせでどのようなイメージがわくかを参加者に問う。

 たとえば、赤、黄色、白の組み合わせは、「油ぎったイメージ」を喚起するので、ハンバーガーのブランドなどによく使われる色使いだ。

 ブランドには「ストーリー性」や「イメージ」も重要であるという。ナイキをはじめとしたいくつかのブランドのイメージ写真から、「自由な感じ」「最先端な感じ」など、どのようなイメージを喚起したかを参加者が答えていく。

 こうしてブランディングの基礎を学習した参加者たちは、再びTシャツづくりに取り掛かる。自分のブランドをつくるために、そのテーマやイメージを表す形容詞をピックアップし、ロゴをつくり、色を選ぶ。前述の油木田氏は、Tシャツが完成したら、自分の世界観に合うビジュアルをインターネットから探したり、自分が撮った写真を添えたりして、発表してほしいと課題を出した。この日のキャンプのプログラムの締めくくりとして、参加者から数人が発表し、ジムからデザインクリティーク(講評)を受けた。

 ある女性の参加者は、Tシャツの「汗の染み」が気になることを逆手にとって、汗をかくことをもっと肯定的に捉えたい、汗の染みを恥ずかしがらず、積極的に活動してどんどん汗をかこうというコンセプトで作成したTシャツについて発表した。

 Tシャツの背面にできた汗の染みを「クジラ」の形に見立て、目などの装飾をつけたTシャツを作成した。「リュックで登校しており、リュックを下ろすと、背中に大きな丸い汗の跡がつく、その形がクジラのように見えたから」と言う。汗の染みがクジラだと思えば愛らしく、汗をかくこともいとわしいと感じなくなるのでは、という思いからの発案だと説明。彼女はそのブランド名を「Swhale」(汗の「sweat」とクジラを意味する「whale」を合わせた彼女の造語)と名付けた。

 ジムは講評で、「汗をかくことを恥ずかしがらず、隠さないという方向性がすばらしい」とたたえ、Fun(楽しさ)にもっとフォーカスし、「みんなで一緒に楽しむ」というところを強調したらさらにいいだろうとアドバイス。いとわしく思えるものを肯定的なものに変えた点がこのアイデアの秀逸さだと締めくくった。

 こんなふうに何人かのTシャツ、ロゴ、ブランドのイメージなどを次々と評し、良いところを褒め、より良くなるように改良点を示し、アドバイスをしていった。

 今回の5日間のキャンプのプログラムは以下のようなものだ。

IDEOPhoto by Takumi Kitamura(IDEO Tokyo)

【1日目】
自己紹介の後、皆で大きな氷を彫刻する(「お互い打ち解ける」という意味を持つ「アイスブレーク」をそのまま実践)。この日のテーマは工業デザイン。リバースエンジニアリングの実践として、家電を分解する。

【2日目】
テーマはコミュニケーション・デザイン。Tシャツ制作と自分のブランドづくり。

【3日目】
テーマはデザイン・リサーチ。お互いに目隠しをして、共感ゲームをしたり、表参道を散策して人を観察したりする。

IDEOPhoto by Takumi Kitamura(IDEO Tokyo)

【4日目】
テーマはインタラクション・デザイン。NASAの火星探査車「マーズ・ローバー」のようなラジコンカーを、カメラを見ながら動かし、UI、UXの理論を学ぶ。

【最終日】
5日間を通じて得た着想から作品をつくり、展示する。作品の質を競うのではなく、「作品そのもの」で見る者を圧倒することを意識する。規模、音楽の使い方など、1週間分の「マッドネス」でコンピレーションの妙を見せる。

「d.camp Tokyo」は2019年に開始された。2020年、2021年と2回ずつ開催し、今回は5回目の開催となる。2020年の2回と2021年の1回はオンラインで開催したため、対面式での開催は2回目だ。もともとは、サンフランシスコで、社員の家族向けにこうしたデザインの教育プログラムを実施していたが、次第に外部の子どもたちも招くようになったという。