実際、私が主催する「実家の片づけ」をテーマにしたセミナーにいらっしゃる多くの方が、自分の家の片づけと同じやり方をして「実家の片づけ」に失敗した方々です。
つまり、ほとんどの方が従来の片づけ本にある方法(収納術や便利グッズの使用など)を実家の片づけに当てはめて失敗した方々なのです。
なぜ、失敗してしまうのか。理由はたったひとつ。みなさん「自分の家の片づけと実家の片づけはゴールが違う」ことをご存じないからです。
自分の家を片づけるゴールは「きれい」にすることであり、楽に家事ができることであり、めざすはモデルルームのようなおしゃれな家です。
一方、実家の片づけのゴールは、「親が安心・安全・健康に暮らせる家」です。そして、ここがいちばん重要なのですが、親の家の主(あるじ)は親であり、子どもであるあなたではないということ。勝手に捨てていいものはひとつもないし、親の考えを無視して動かしていいものはひとつもないということです。
私がこうお話しすると、必ずといっていいほど、
「でも、いちいち親の言うことを聞いていると何も捨てられないし、険悪な雰囲気になってしまう。だからもう、実家の片づけなんてしたくない」
という意見が出てきます。
「親が亡くならない限り片づけるのは無理だから、そのまま放っておいたほうがラク」
そんな声も聞こえてきます。「見なかったことにする」という逃げの論法です。
本書にも、“遺産整理”“施設入居時の片づけ”などの表現は出てきますが、基本的に扱っているのは「親が元気で、意思があるうちに行う実家の片づけ」です。
もし、あなたが60歳の両親が住む実家を先ほどの声のように、「どうせできないから」と先延ばしにしていたらどうなるでしょうか。平均寿命と照らし合わせても、あと20年は少なくともそのままの状態が続きます。それどころか物は増え続けるのです。人間は誰しも、生きる時間に比例して思い出と物が増えていきます。それに引き替え、体力は落ちていく。親ももちろんですが、問題なのは子ども世代であるあなた自身も年をとってしまうということです。気づいたら、親の物だけではなく、自分の物も増えていて収拾がつかない……。今度は自分の子どもたちから「片づけられない親」と言われてしまいます。さらにそのまま放っておくと、自分の子どもに2世代分の負の遺産を残すことになってしまうのです。
また、私が「親が60歳になったら、たとえ元気でも実家の片づけを行いましょう」と言っているのにはわけがあります。それは、親が亡くなったあと、つまり遺品整理は、今のあなたが考える「実家の片づけ」とは比べものにならないくらい大変かつ悲しいものだからです。
何の片づけもしないまま迎えた遺品整理は、整理とは名ばかりの、貴重品、重要品を探し回る「家探し」です。なかには大金を払って業者にお願いする人もいます。100万円かかって大変だったという人もいるほどです。
さらに、よほどのことがないかぎり、親が亡くなったあとはつらい思いをします。今までは「片づけたほうがいい」と言っていたものでも、思い出が増幅し、あなた自身が捨てられなくなってしまいます。その結果、何年も放ったらかしにしてしまう……最近話題の空き家問題は、おそらくこの一端でしょう。
よく、セミナーで「いつになったらはじめればいいですか?」という質問を受けます。本書でも詳しくご説明しますが、あなたがこの本を手にしたこの瞬間こそ、「実家の片づけ」をはじめるベストタイミングだと私は思っています。