世にTPSを解説した書物は多いが、「カイゼンを実践できる人はどんな考えで行動できる人なのか」「どこが普通のサラリーマンと違うのか」というような、個々の人間レベルまで掘り下げて解説した本はあまり見かけない。トヨタの労使関係の深淵(しんえん)に踏み込んで見てみると、実は、その部分が見えてくるのだ。

 そこで私は、TPSの中核をなすカイゼンの本質をできるだけ多くの人に理解してもらうため、トヨタの労使関係のエッセンスともいえる「話し合い」をテーマとして、自分のナマの経験を披露してみようと考えた。それが、会社生活の大部分を労組役員として勤めた人間の使命ではないかと思ったからである。

 ところで、この本を書き進めている時期に、企業不祥事が多発し世間を騒がせた。私に言わせれば、カイゼンが真に社員に根づけば、企業不祥事など起こるはずはない。なぜなら、「カイゼン」とは、「悪さ、問題点の洗い出し、見える化」が第一歩だからである。悪さを隠す人間をゼロにすれば、不祥事は根っこで防げるはずだ。

 トヨタ労使が愚直に追い求めてきたカイゼン定着への道のりを知ってもらうことは、企業不祥事の防止につながる道でもあると私は思う。

 もう一つ、この本で言いたい大切なことがある。カイゼンを実践する社員は、自ずと仕事に対するモチベーションが高まるということである。TPSは、製造部門との親和性が高いが、他のどんな業種でも、カイゼンの実践によって社員のモチベーションを上げることは可能である。社員の士気が高くなれば、業績向上に資することも間違いない。

 欲張るようであるが、さらにもう1点付け加えると、カイゼンを実践することは個々人の生き方を前向きにする。前向きな生き方はその人の人生を豊かにする。この本でトヨタ成長の秘密を読み取り、人生をも豊かにしていただければ、こんなに嬉しいことはない。

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