民衆の煽動者に対して厳しい目を向けたギリシャ人
――民主主義に関してほんとうに知らないことが多いのだな、と痛感しました。他に、岩本さんが印象的だった内容はありますか。
岩本 古代アテネの民主主義がデマゴーグと呼ばれる目立って民衆を煽動するような存在の危険性を強く意識していたという点も、非常に興味深かったです。賛同者の人数が一定数に達することを条件に、民衆を煽動するような人気取りの政治指導者をアテネから10年間、追放することができたといいます。
つまり、当時のギリシャ人は民主主義の負の側面ともいえるデマゴーグの危険性を十分に理解し、警戒しており、そういった事態から国を守る制度をあらかじめ作っていたということです。民主主義をよく理解し、濫用の危険性に対して、現在よりもずっと厳しい目が向けられていたことを意味するように思います。
――現代でいうと、トランプ前大統領を思い浮かべました。
岩本 そうですね、もし古代アテネの制度があれば、賛同者の人数が一定数に達すれば、トランプをアメリカから追放できたということです。
民主主義の文化が濃ければ濃いほどポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)が生れる危険性も高くなります。ポピュリズムは、既存の政府や政党に対する怒り、不満の裏返しだと思います。アメリカではいわゆる中西部の白人労働者の怒りや不満が露骨に表出した結果、「トランプ現象」が起きたと考えることができるでしょう。