民主主義は多様であり、土地に合わせて変容する
――前回は、民主主義がその国や状況に合わせて変容するとおっしゃっていました。民主主義というと、どうしてもアメリカの民主主義やイギリスの民主主義をイメージしてしまう。しかし、その思考自体がやや実態からズレているのかもしれませんね。
岩本 はい。本書では、民主主義には非常に多様な形態があることが指摘されています。例えば、アフリカのセネガルやインドの民主主義は、現地の文化や宗教と密接に絡み合っており、いわゆる欧米型の自由民主主義とは、その内容がずいぶんと異なっています。
こうした傾向を、民主主義が西洋的、白人的なものから、それぞれの土地に根差したものに変わっていると著者は前向きに捉えています。私はこの思いを読んで、オーストラリア出身の著者ならではの、過度に欧米寄りではない、バランスの取れた民主主義の解釈の仕方だと感じました。
――そうですね。インドも民主主義に含められるのだと驚きました。平等で法の統治が機能していることが民主主義の要件だと思い込んでいたので。
岩本 インドではたしかに選挙は行なわれているのですが、「国民主権がどこまで果たされているか」といった民主主義の中身に目を向けると、疑問が湧くのは当然でしょう。実際に、民主主義の調査・研究を行なっているV-Dem研究所では、インドは専制主義の国だと分類されているんです。つまり、専門家の中でも意見が割れている。世界一の人口を誇る国ですから、今後より注目が集まっていくことは間違いないでしょう。
――なるほど、広義の民主主義で捉えるか、狭義の民主主義で捉えるかでも、その位置付けが変わってきそうですね。ただ、「多様な民主主義が世界に存在している」という考え方はきちんと踏まえておきたいです。
岩本 はい。本書で引用されているフランスの哲学者のジャン・リュック・ナンシーは「民主主義は形の決まったものではない」と伝えています。水と同じように絶えずその形を変えるのが民主主義なのです。
これまで当然とされていた生き方に抵抗することが、民主主義の真の魅力だと著者は考えているのではないかと私は思っています。
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