日本で「民主主義」という言葉を知らない人はいないだろう。しかし、民主主義が歴史とともに変っていった背景を知る人はそう多くはない。加えて、現在もたくさんの国で変化が起き続けている。民主主義は政治に強い関心のある人が知っておけばよい知識ではない。すべての人の生活に深く関わる社会制度である。そこで、今回は、「いま、なぜ民主主義の通史を学ぶのか」という問いを、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』の翻訳者・岩本正明さんとともに掘り下げていく。(取材・構成/佐藤智)
民主主義への不満が世界中で高まっている
――最近、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』も含め、世界中で民主主義に関する書籍の出版が目立ちます。これにはどういった社会背景が影響しているのでしょうか?
岩本正明(以下、岩本) 本書の冒頭でも指摘されていますが、世界中で民主主義に対する不安や不満が高まっていることが最も大きな原因だといえるでしょう。「民主主義の敗北」ともいえるような事態が各国で起きています。
30年ほど前までは、民主主義の前途は明るく見えました。軍事独裁政権の崩壊やアパルトヘイトの撤廃など、市民の力を軸にした民主主義の力強さを感じることができたのです。しかし、現在は、ベラルーシ、ミャンマー、香港で起きている出来事など、世界中で民主主義への不安を感じずにはいられない状況になっているといえます。
1979年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、時事通信社に入社。経済部を経て、ニューヨーク州立大学大学院で経済学修士号を取得。通信社ブルームバーグに転じた後、独立。訳書に『FIRE 最強の早期リタイア術』(ダイヤモンド社)などがある。
――いわゆる「民主主義の揺らぎ」はデータでも裏付けられているのでしょうか?
岩本 はい。本書でも触れられていますが、2019年に27ヵ国を対象に実施したある調査によると、半数以上の回答者がいまの民主主義のあり方に「満足していない」と答えています。加えて、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの研究者は、2007~2017年にかけて民主主義に対する自信が失われており、さらに政府の透明性や説明責任、不正に対する懸念が大きくなっていることを明らかにしています。
しかも、どの国においても民主主義の満足度は特に若者の間で低くなっていることがわかっています。
――将来を担う若者の間で、民主主義への満足度が低いというのは気がかりですね。
岩本 日本でも同じような傾向が見られます。例えば、総務省のデータで見ても、20代、30代の若者の投票率が平成に入ってから特に顕著に下がり、その後、波はあれど減少傾向が続いています。
これには、政治への関心の低さという問題もあるかもしれませんが、いわゆる日本の高齢化の進行による「シルバー民主主義」を肌で感じ、無力感にさいなまれているという要因もあるのではないかと思います。若者たちは、「自分たちが投票したところで、結局、数で圧倒する高齢者向けの施策が優先されるに違いない」と感じているのかもしれません。