ビジネスの世界で注目を集める「心理的安全性」という言葉。その重要性は分かっているけれど、具体的にどのようなコミュニケーションで心理的安全性の高い環境を整えればいいのか分からないリーダーも多いのではないでしょうか。そんな問題を解決する教科書が『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』です。本書では実際のオフィスで使われた声かけ1000万件超のうち、特に効果の高かった100件を紹介。NG表現とOK表現の言い換え例を見せながら、心理的安全性を高める声かけを理解していきます。本連載では、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』で掲載した声かけをピックアップして掲載。まずは具体的な事例紹介に入る前に、「そもそも心理的安全性とは何か」について解説した文章を、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』から抜粋して紹介します。

衝撃の事実!日本企業がダメになった原因は「心理的安全性」の欠如にあったPhoto: Adobe Stock

心理的安全性がないから、日本企業は衰退した

 心理的安全性とは何か。その内容については1つ前の連載記事「実は相当厳しい「心理的安全性」。多くの人がその意味を勘違いしている!」で紹介しています。

 こうして言葉を尽くしても、読者の中には心理的安全性について、「メンバーを甘やかすだけではないか」と懸念している人もいるかもしれません。ですが、心理的安全性は今後の企業経営には必須の要素となります。その時代的な背景についても解説しましょう。

 みなさんは、日本の「従業員エンゲージメント」(従業員の企業に対する信頼や貢献意欲を示す)が世界最低だというニュースを聞いたことはあるでしょうか。アメリカの調査会社ギャラップが発表した内容で、日本のビジネスパーソンに衝撃を与えました。

 この結果が示唆していることを私なりに要約すると、「国際的に見て、日本の従業員は企業を信頼せず、企業に対する貢献意欲も低く、企業側も人材に投資せず、国際的な人材競争力も下がる傾向にある」ということになります。

 なぜ、このような状況が生まれてしまったのでしょうか。

 もともと日本企業は、高度経済成長期において、すばらしい組織力と現場力による“改善のスピード”で、他国を圧倒してきました。少し乱暴な表現にはなりますが、この組織力と現場力を支えたものが、上意下達的な文化や同質性を求める企業風土でした。

 このことを踏まえた上で、経営学者の遠藤功さんは、『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』(東洋経済新報社)の中で、今日の日本の凋落が生じた要因を「組織風土の劣化」にあると述べています。その原因については「上司の高圧的・威圧的な態度と言動が、すべての起点」になっていると指摘し、心理的安全性が担保されていない会社が増殖したがゆえに、日本企業は衰退したと結論づけています。

 心理的安全性とは、「自分の意見を組織のメンバーの誰とでも率直に言い合える状態」です。しかし、多くの企業はこれとは逆の、「目立つ発言をしてはいけない」「発言をしたら恥ずかしい」などの価値観で社員を育ててきたのではないでしょうか。

経営に失敗して痛感した、心理的安全性の重要性

 私は17年間、経営の世界で働いてきて、この現実を痛感しています。特にはじめの10年間は、徹夜もいとわないワンマン社長として、体育会系の根性論を振りかざしてメンバーを率いてきました。恥ずかしながら、心理的安全性の低い社長だったのです。

 そのため、メンバーの離職が続きました。このダメージはことのほか大きく、「このままではもうやっていけない」と極限まで追い詰められ、ようやく自分のマネジメントスタイルを変えることを決意しました。

 そこで着目したのが、「心理的安全性」です。『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』には、過去の私の失敗談や、そこから得た学びについても盛りこんでいます。

 現在、私たちの会社は「Unipos」というサービスを通じ、心理的安全性を高めることで、組織風土の改革のお手伝いをしています。

 一朝一夕でできることではありませんが、それが実現したときの「会社の風土が変わって本当に良かった」「うちの会社も捨てたものではないな」「社員の目の色が変わったよ」といったお客さまの言葉を聞くたびに、「心理的安全性の高い組織になれば、会社は良い方向に変わる」ことを確信してきました。

『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』には、そんなお客さまの成功事例も、ふんだんに盛り込んでいます。