ビジネスの世界で注目を集める「心理的安全性」という言葉。その重要性は分かっているけれど、具体的にどのようなコミュニケーションで心理的安全性の高い環境を整えればいいのか分からないリーダーも多いのではないでしょうか。そんな問題を解決する教科書が『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』です。本書では実際のオフィスで使われた声かけ1000万件超のうち、特に効果の高かった100件を紹介。NG表現とOK表現の言い換え例を見せながら、心理的安全性を高める声かけを理解していきます。本連載では、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』で掲載した声かけをピックアップして掲載。まずは具体的な事例紹介に入る前に、「そもそも心理的安全性とは何か」について解説した文章を、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』から抜粋して紹介します。(初出:2022年10月14日)

実は相当厳しい「心理的安全性」。多くの人がその意味を勘違いしている!【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

多くの人が勘違いしている「心理的安全性」

「心理的安全性」とは何か。端的に言えば、それは「自分の考えや意見などを組織のメンバーの誰とでも率直に言い合える状態」ということになります。

 この言葉は、ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソンさんが、1999年に論文で発表したものです。心理的安全性が一躍注目されるきっかけとなったのがグーグルの調査「プロジェクト・アリストテレス」でした。

 このプロジェクト名は、グーグルが2012年から始めた生産性改革プロジェクトの総称です。調査の目的は「高い成果を生み出すチーム」が共通して持つ成功要因を探し出すこと。膨大な資金と約4年の歳月が費やされました。

 この調査で立てられた仮説はさまざまです。「リーダーに圧倒的なカリスマ性があるか」「学歴や趣味に共通点があるか」「メンバーはプライベートでも親しい関係性か」「特定の報酬によってモチベーションが高まるか」などを検証するために、グーグルは公私にわたる大規模なモニタリングを展開したのです。

 結果は、驚くべきものでした。

 決定的な要因として明らかになったのが、「心理的安全性」だったのです。心理的安全性の高い組織やチームほど、パフォーマンスが向上することが分かりました。

 実際、エドモンドソンさんは、ミスの少ない医療チームほど、ミスの可能性についてメンバー同士が率直に話し合い、ミスを回避するための方法を見つけようとしていると報告しています。

 ミスについて言い出せ、語り合える医療チームであるほど、誤りを犯す確率が低いということです。この「ミスについて言い出せ、語り合える」状態に、「心理的安全性」という名前をつけたのがエドモンドソンさんでした。

 彼女もまた心理的安全性の高さがパフォーマンスの高低に相関すると結論づけています。それは、医療業界に限りません。彼女の著作『恐れのない組織』では、製造業やサービス業などにも同様のことが言えるという研究結果が紹介されています。

 心理的安全性は、どんな組織やチームにおいても、メンバーの能力を引き出し、やる気を高め、生産性を向上させます。

心理的安全性の高いチームと
「ぬるいチーム」はまったく違う

 心理的安全性に関する勘違いで多いのが、心理的安全性の高いチームを「仲良しチーム」「ぬるいチーム」と捉えているケースです。

 心理的安全性が高いとは、意見を率直に言い合えるということです。例えばミスや失敗の報告、誰かの意見に対する反論など、普通ならなかなか言い出せないようなことを安心して話せる状態こそ、心理的安全性の高い状態と言えます。

 通常、人は「自分の率直な発言によって人間関係が壊れるのではないか」といった不安を抱きがちです。そのため、言いたいことを引っこめ、「沈黙」を守る人も少なくありません。沈黙していた方が賢明だという考え方もあるでしょう。

 しかし、それではもったいない。エドモンドソンさんはこの観点から次のように述べています。

「対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境であること。それが心理的安全性だ」(『恐れのない組織』)

 どこまでも、率直に意見を言い合える場を作ることにフォーカスする。ここが急所です。心理的安全性の高い風土を育む上で、一歩踏み出しやすい行動として、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』では、「声かけ」に注目しました。言い方を少し変えるだけで状況は変わります。その具体的な方法に触れながら、心理的安全性を高める手法をお伝えしています。