「なぜ日本でイノベーションが生まれないのか」の連載1回目では、イノベーションが起きる条件を探るために、新型コロナウイルスワクチンをいち早く開発した米モデルナを取り上げたが、2回目では、EV(電気自動車)のトップメーカーとなった米テスラのイノベーションを生む土壌を検証する。(日興リサーチセンター研究顧問 東京大学名誉教授 吉川 洋 日興リサーチセンター理事長 山口廣秀 日興リサーチセンター理事長室 前室長 井筒知也)
EVの新モデルを量産し
トップメーカーとなったテスラ
この10年間、気候温暖化対応のため、EVの生産・販売が急速に拡大してきており、その牽引(けんいん)役となっているのがテスラである。
同社は、EVの生産・販売を目的に、米国デラウェア州で2003年7月に設立された後、2008年にEVの高級モデルの販売を開始し、以後次々と新モデルを量産している。
2021年の世界のEV販売台数は、前年比108%増の650万台で、そのうちテスラの販売台数は94万台と、全体の14%を占め、首位の座にある。
EVの未来にはいまだ不確実性が伴う、といわれる。確かに今後1~2年の動向を正確に予見することは難しいかもしれないが、10年後の未来を担う車がEVであることは確実である。
2022年8月、米カリフォルニア州の環境当局は2035年にガソリン車の新車販売を全面禁止するという非常に厳しい規制案を決定した。これは日本メーカーが得意とするハイブリッド車も禁止対象とするものである。
1970年、全米での排出ガス規制を厳しく求める「マスキー法」が決定された時には、その実効性が疑問視されたものだが、当時「過激」と評された同法のフィロソフィーがその後の歴史を決めたことは、よく知られた通りである。EVの場合も同じ歴史をたどることになるに違いない。
これまでテスラ社が画期的なイノベーションをベースとしてEVを開発し、生産・販売の大幅な増加を実現するに至った背景は、5つに集約できる。
次ページ以降、そのポイントを詳説していく。