ルソーを読み解く名著

 作曲家でもあったルソーには『社会契約論』(桑原武夫・前川貞次郎訳、岩波文庫)、教育について論じた『エミール』(今野一雄訳、岩波文庫、全3冊)、自伝である『告白』(桑原武夫訳、岩波文庫、全3冊)などたくさんの名著があります。

 また、ルソーより少し年長のフランスの貴族、シャルル・ド・モンテスキュー(1689-1755)は、イングランドの政治思想に影響を受けてフランスの絶対王政を批判し、権力分立(三権分立)を唱えてアメリカの独立やフランス革命に多大の影響を与えたことで知られています。

 主著は、20年を執筆に費やして1748年に公刊された『法の精神』(野田良之ほか訳、岩波文庫、全3冊)です。

 早くも2年後には英訳されて、権力分立の考え方が全世界に広まりました。

ドーヴァー海峡を行き交った人と思想

 ホッブズとルソーの哲学を検証してみると、ホッブズは『リヴァイアサン』の発想などに観念性が強く見られ、大陸合理論のデカルトの系譜と近いようにも思われます。

 逆に、ルソーの社会契約説はロックの思想から多くを学び、発展させているようにも思えます。

 当時、イングランドと大陸の哲学者たちは、かなり足しげく交流していました。

 イングランドの経験論と大陸合理論が交錯する潮流に政治哲学を巡る論争も加わって、近代の合理論は発展しました。

 そして、キリスト教によって整合的に世界の秩序を描いてきたスコラ哲学がボロボロに壊れていったのですが、そのとき、ドーヴァー海峡の北西側に大陸とは異なる議会制の君主国家が存在したことは、意味深いものがあったように思われます。

 イングランドと大陸は、経済的な面のみならず、思想的な面でも深い交流を重ねてきたことがよくわかります。

 このような歴史的な文脈で考えると、ブレクジット(EU離脱問題)はかなり異質な動きであり、連合王国は、いずれはEUに復帰するのではないかと僕は考えています。

『哲学と宗教全史』では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を、出没年付きカラー人物相関図・系図で紹介しました。

 僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んだ全3000年史を、1冊に凝縮してみました。

(本原稿は、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)